未来を変えるためにプレゼンをしよう【渡辺克己氏×伊藤羊一氏】 

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1分で話せ』の著者であり、企業でプレゼン指導をすることも多い伊藤羊一氏が、ナレーターやMC、俳優、演出、プレゼン指導など多方面で活躍している渡辺克己氏にインタビュー。プレゼンとは何か、プレゼンで何を意識すればよいのか、伺いました。

背景を理解して役割を果たす

渡辺さん

伊藤:多方面でご活躍されていますが、渡辺さんのお仕事をひと言で言うと?

渡辺:ちょっと抽象的な言い方をすると「代弁者」でしょうか。誰かのメッセージを、自分が直接ナレーターやMCとして喋る場合もあれば、映像やコンテンツを作って社長にプレゼンしてもらうなど、誰かの思いを形にして伝えていく場合もあります。単純に言うと事業領域は、「コミュニケーション産業全般」で、「何かを誰かに伝えること」がコアです。

伊藤:元々は県庁で働いていたんですよね。

渡辺:大学で北海道へ行き、ひょんなことから芝居を始めました。そこから色んな出会いがあって、ラジオのADをやったことから番組制作にハマり、そのあと松山千春さんの事務所に入って制作をやりました。地方局だったので、企画を考えて取材に行って編集して最終的にオンエアするまでを一気通貫でやらなければならず、いろんな考え方やスキルが身に付きました。ただ、親がガンになったので東京へ戻り、たまたま試験を受けて神奈川県の外郭団体に入りました。それが27歳の頃です。

芝居はもう辞めていたけど、入社後2年くらいして、たまたま演劇の市民講座に目が留まって、興味本位で行ったんです。そしたら火が付いてしまって再開しました。そのうちにキャスティングの人に「芝居も良いけど、声の仕事をしたら儲かるよ」って言われて。軽い気持ちで、30歳で脱サラしました。

伊藤:アップルのMCをしばらくされていましたよね。

渡辺:アップルにジョブズが戻ってきて「Think different.」キャンペーンをやっていたとき、Macworld ExpoのMCオーディションを受けました。アップルのMCを務めることになって、人生が変わりました。

当時、MCはイケメンばかりでした。そんな中にあって、普通の自分は何が売りになるか必死に考え、とにかく「本当はこの人が開発したんじゃないか?」って見えるプレゼンをしようと決めました。

だから、しつこく「この裏の概念はどうなっているんですか?」「ここで一番伝えたいことは何ですか?」と聞いて回った。用意された原稿をただ読むのではなく、無限とも言える言葉の海の中から、なぜその言葉を選んだのか、その選んだ裏側が繋がると非常に喋りやすいんです。

とはいえ、幕張メッセの会場で2,000人くらいの参加者を前にしたとき、さすがに「自分でいいのかな」と不安になりました。でも、「アップルのプレゼンターという役割を果たしているんだ」というスイッチが入った途端、景色が変わりました。

この話は経営者の方々にもしています。自分に自信がなくても社長なら社長としての「役割を果たす」、本当の意味でのロールプレイングをすればいい。あるいは、個人としては「そうじゃないんだよな」と思いながらも、リーダーとしては言わなきゃいけないときはある。そのときも、演じるのではなく、リーダーとして必要な機能を果たせばいいと。

プレゼンはその人のドキュメンタリーである

伊藤さん

伊藤:Yahoo!アカデミアでプレゼンの指導をお願いしていますが、非常に面白いのが「集団トレーニング」であるということ。5~10人が集まり、1人ずつ前に呼ばれてミヒャエル・エンデの『モモ』の一節を読む。そこから心理的な壁をどう破るかとか、声の出し方とか、空間の捉え方とか、メッセージをどうやって考えるかといった指導が始まる。5、6時間、集団でトレーニングするのはなぜでしょう?

渡辺:トレーナーが考えた枠組みに人をはめてくトレーニングだと、結局それはそのトレーナーのコピーをつくることでしかない。そうではなく、それぞれが何かを発見して日常の中で構築していくための起点の場にしたいんです。

例えば、「1on1」をするときに、表面的な所を見て「OK」「ダメだね」と言う方もいるでしょう。ですが、表面には見えていない、その人の無意識を明らかにしていくことで、本当はダメじゃないことが見えてくる。さらに、言葉によって相手がどう変わるのかモニタリングする力を鍛えることで、成長につながる声かけをすることができるようになる。その意味で、プレゼンって「発信」に意識がいくんですけど、僕は9割9分「受信」だと思っています。

伊藤:渡辺さんは「世界との関わりをいかに持つか」という話をよくされますよね。

渡辺:まず前提として、プレゼンはその人のドキュメンタリーだと思うので、その人が生きてきたもの以上のものは出ないんです。そこと離れて何かをやろうとしても、虚飾になる。例えばジャパネットたかたの高田元社長のテンションをただ真似しても同じ印象にはならないですよね。「この商品があなたの生活をこう変えます」ということに対しての思いを持っていることが大切なのです。

世界と関わるというのは、例えば、経理部門の人が「正確に給料計算しとけばいいでしょ」と考えるのか、それとも「自分がきちんと給料計算をすることによって、安心して社員が働けます。それによって業務に集中して世界の課題を解決できます」と考えるのか、という違いがあります。

自分だけで世界を変えられるんだったら、わざわざプレゼンする必要はないんです。誰かの力を借りる、誰かが仲間になってくれることによって、その世界が実現できるんだっていうことが見えているからこそ、プレゼンする意味があるんです。

自己を客観的に見るために練習を積む

伊藤:トレーニングでは、「君、仕事つまんないでしょ?」「君、世の中を否定的に見てない?」といったフィードバックもされますが、何を見ているんですか?

渡辺:その人のパフォーマンス全体です。声や身体って色んな情報を持っているんです。身体は楽器なので「自分の身体をどう演奏をしているか」が、結果的に声の音色として出るわけです。生活してきた物理的な環境、怪我をしたなどの身体状態、あるいは親や職場との関係といった心理的な状態など、色んなものが影響します。そこに対して意識を向けないようにして生きてきたのか、積極的に関わる生き方をしてきたのかは、その人の体の癖として出てくる。

伊藤:そうした自己に意識を向けていく姿勢は、マインドフルネスに近いですね。

渡辺:そうですね。例えば秒針の音がする時計を置いておき、話すことに集中して音が聞こえなくなったらアウト。話しながらも時計の音は聞いているし、蛍光灯の光も受けていると。世阿弥で言う「離見の見」ですね。プレゼンにおいては、「今の自分はこうしているけど、この状態はどう角度を変えたら見えるのか」ということも意識する必要がある。

伊藤:主観と客観を同時に持つということですね。客観がないと自分勝手なプレゼンになってしまうから、その場を認識しながらつくり上げていくみたいなところもあると。

渡辺:動物的な言い方すると、真剣なプレゼンするときは自分の毛穴を全部開いて、ありとあらゆるセンサー、チャンネルを開きまくる方がいい。結局、喋ることを考えずに相手に集中できて、周りの様子をきちんと見られるようにするためには、やっぱり準備なんですよね。「このあと何喋るんだっけ?」って考えているときは景色が見えなくなるんですよ。車で言うならば、意識しないでも車を運転できる状態になっていたら、道路標識も見えるし、歩行者が出てきたらブレーキも踏むし、会話も楽しむことができる。

だから、ベースになるものをきちんと準備して身に染み込ませる。身に付くだけじゃなくて、どう身に染みこませるか。「もう懲りたな」「もう分かった」っていうとき、「身に染みる」って言い方をするじゃないですか。もっと言うと「骨身に染みる」っていう。そういう状態に持っていく。

伊藤:僕も、ソフトバンクの孫さんに初めてプレゼンすることになったとき300回練習しました。1回1回思いを込めて、録音して、削って……を繰り返していたら、本番で無意識的有能の状態になった。なので、まず回数はとにかくやろう、それからちゃんと録音しよう、1回1回聞きながら言葉削ったり付け加えたりやろうと言い続けています。

渡辺:最終的には人の数だけプレゼンがあっていい。スムーズに喋る、時間通りに喋ることが上手いんですかと。未来を変えられるかどうかで言ったら、たった一言しか言えなかったとしても、人の心が動いたら未来は変わるので。

伊藤:いつもながらに刺激的な話をありがとうございました。

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