昨日までプレイヤーだった人が、ある日いきなり、組織の長(=マネジャー)になる、外部環境の変化が早くなり、組織の体制を柔軟に変えていくことが求められる時代、そういったことがざらに起きるようになった。
本書では、マネジャーになった人が乗り越えるべき課題と、乗り越えるための具体的な手段(=能力/スキル)を紹介している。今、マネジャーとして、様々な課題にぶつかっている方がいると思うが、皆さんの周りにいるマネジャーも、皆さんと同じように課題にぶつかり、時間をかけて乗り越えてきたはずだ。私自身、マネジャーという役割を担うことになったとき、戸惑いや失敗の連続で、今も役割を果たしきれているとは言えないが、本書に出会うことで自分の役割や必要なスキルが整理され、心理的にも救われた。だから、どうか1人で悩まず、本書をヒントに、その壁を乗り越えてほしい。
そもそも、プレイヤーとマネジャーの違いは何だろうか。様々な定義があるが、この書籍では、マネジャーの役割は、「他者を通じて物事を成し遂げること」と定義している。つまり、自分1人ではなく、組織として結果を出すことが、マネジャーの役割だとしている。そして、この役割を果たすための挑戦課題として、部下育成、目標咀嚼、政治交渉、多様な人材活用、意思決定、マインド維持、プレマネバランスの7つについて、記載している。どれも大事な課題だが、ほとんどのマネジャーが最初にぶつかるであろう「プレマネバランス」について、紹介したい。
自分のリソースの何割をプレイヤーとし、何割をマネジメントに置くのか、このプレマネバランスを取ることは本当に難しい。なぜなら、このバランスに正解はなく、いわゆるケースバイケースだからだ。チームの役割、メンバーの契約形態/能力値/モチベーション/コミットメントなど、様々な要素を踏まえて、その時の最適解を探していくしかないのだ。そして、このバランスが崩れると、部下育成や意思決定、マインド維持など、他の要素にも影響が出てくるため、特に注意が必要だ。
プレマネバランスを取るということは即ち、自分でやること/やらないことを決め、やらないもののうち、何をどのメンバーに任せるか、を決めることだ。まずは、最初の一歩として、自分の1週間のスケジュール/タスクを見直してみて欲しい。徐々に、3ヶ月、1年間と期間を広げていくことで、その組織におけるあなたのプレマネバランスのベースが決められるはずだ。この切り分けが出来ると、メンバーに任せる仕事ができ、さらに、メンバーの能力値より少し高めの仕事を割り振ることで、メンバーの育成になる。
誰かに任せるということに後ろめたさを感じてしまう方もいるかもしれないが、それはまだプレイヤーとしての視点であるということに、この書籍を読むことで私自身気付かされた。マネジャーとしての視点で任せるということは、メンバーにとって新たな仕事に取り組める機会であり、成長のチャンスになる。
最後に、マネジャーになった人にとって、それは単に役職の変化ではなく、組織のなかで求められる役割が変わったということだ。役割が変われば、それを達成するための必要な能力も変わり、必要な期間がある。誰もがいきなりマネジャーとしての役割を果たせるわけではないのだ。繰り返しになるが、できない自分を責めるのではなく、誰もが通るべき道であり、必要な期間であるということを受け止めることから始めてみて欲しい。
『駆け出しマネジャーの成長論』
中原淳(著)、中央公論新社
950円