Modern Monopolies――同書の原題だ。直訳すると「現代の独占」だが、このタイトルこそ、本書の特徴をよく説明していると思う。
実際、アップルやアマゾン、グーグルなど大手プラットフォーマーが世界の時価総額ランキングに名を連ね、世界を支配していると危惧する声が毎日のように聞こえてくる。
このプラットフォーム・ビジネスの特徴について、「ネットワーク外部性が働くので、勝者総取りの状況が生まれやすい」というくらいであれば、誰でも聞いたことのある話であろう。しかし、今世界で起きている変化を理解し、自身の関わるビジネスにその考え方を適用していこうとすると、それだけでは足りない。
私自身も、人材開発コンサルタントとしてクライアント企業の経営幹部候補者が自社の中長期の経営課題を検討するプロジェクトに伴走している中で、デジタル経済とプラットフォームの脅威に関する話はよく耳にする。しかし、いざ自社の顧客や業界に具体的にどのようなインパクトがあり、自社が先立ってどんなチャレンジをすべきか考える段になると、なかなか議論が進まないケースが多い。そのような場合、本書の一読をお勧めしている。
本書は、プラットフォーム構築支援等を手掛けるアプリコ社のCEOとプラットフォーム責任者が協同で執筆した。ブラックベリーを経てiOS・アンドロイドアプリ開発で成功し、今では様々な革新的プレーヤーとプラットフォーム構築に取り組む同社での経験も踏まえ、豊富な事例と共に、プラットフォームによってもたらされる変化の本質が描き出されている。
本書の前半(第1~4章)では、プラットフォーム・ビジネスの経済原理が、いかに従来のビジネス(直線的ビジネス)と根本的に異なるのかを、市場・経済の原理原則に照らして解説している。その解説は平易、かつ豊富な事例に基づいており、これだけでも興味深い。しかし、事例は理解を助けるが、本書の価値はやはり、原理原則に沿った説明が試みられていることである。結果として、事例を知るのみならず、今起きている変化の本質や、今後の変化への示唆、自業界への適応を考えることのできる枠組みを提供していると言える。
例えば、第2章で興味深いのが「プラットフォームは(これまで否定されてきた)計画経済のようなものである」という捉え方である。ある「価値」を生み出す「プロデューサー」とそれを利用する「消費者」がいて、その「取引」を生み出すための「ルール・仕組み」を作るのがプラットフォームであり、それはまさに限定された領域での「計画経済」であると言う。そして、ハイエク、コース、ヘンダーソン、ポーター等、これまで市場経済や企業競争のメカニズムを説明してきた大家とその理論の変遷、そこで前提とされていた原理原則に焦点を当て、プラットフォームをただのツールではなく、原理原則に基づき大きな変革をもたらしうるビジネスモデルとして位置づけている。
本書の後半(第5~8章)では、プラットフォーム・ビジネスでコアとなる機能、ネットワーク効果の本質、その作り方等が、たくさんの事例と共に具体的に語られている。さらに、成功事例だけでなく失敗事例も提示し、なぜそれが成功・失敗したのかを詳しく解説している。読者にとってわかりやすい上に、自社や自ビジネスへの適応可能性を大いに広げてくれることだろう。そして最終章では、今後特に変化が予想される領域とそこでの可能性について言及されている。
プラットフォーム・ビジネスを手掛ける起業家の方はもとより、今はまだその脅威を肌身に感じられていない伝統的企業のビジネスリーダーにこそ、将来に自社に起こる脅威に事前に手を打ち、その脅威を機会に変えるために、ぜひ手に取っていただきたい。本書は、今後のビジネス経営を理解する上では必読の1冊といえる。
『プラットフォーム革命』
アレックス・モザド (著), ニコラス・L・ジョンソン (著)
英治出版、2052円