『社内を動かす力』から「フォローのコツ」を紹介します。
拙著『MBA 生産性をあげる100の基本』でも紹介しましたが、元GE副会長でアライド・シグナルなどでCEOを歴任したラリー・ボシディ氏は、著書『経営は実行』の中で、最後までやり抜くことの重要性を説きつつ、そのためのフォローアップについて具体例を交えながら、かなりのページ数を割いて解説しています。事実、彼はそれまで迷走していたアライドに乗り込むや、派手な戦略を打ち出すのではなく、地道に実行力を高めることで結果を出していきました。人は何かを決めたり始めるときには気持ちが高揚しますが、往々にして長続きしないことも多いものです。決めたことを確実に実行する、人々にエネルギーを与えるといった実行のための基本を適切に行いたいものです。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
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フォローのコツ
一度うまく回り始めたものでも、誰かがどこかで適切なフォローをし続けなければ、いつかタガが外れてしまうものです。短期的な側面でも、長期的な側面でも、それぞれにフォローが必要となります。
短期的なフォロー
短期的なフォローが欠落した例としては、皆さんも身に覚えがあると思いますが、会議で出たアイデアがそのまま放置されるとか、やることを決めたのはよいが、責任体制や期限が決まらず曖昧なまま、といったことがあります。「あれって、結局どうなっていたっけ?」という状態です。
耳に心地よい発言や回答が得られると、そこで気が緩んでしまいがちです。きちんと成果を出すには、初期に実施する体制をしっかり決める、進捗状況を確認する、といった節目節目のポイントをプランに織り込んでおかなければなりません。
また、以下の点に注意して、日々のフィードバックも欠かさないようにしましょう。
- わかりやすい言葉で行う
- フィードバックする相手が対応可能なことについてフィードバックを行う
- 相手の状況に合わせたフィードバックを行う
- できるだけ早いタイミングでフィードバックを行う
- モチベーションを上げるようなフィードバックを行う
- 最終ゴールを意識したフィードバックを行う
反対にメンバーの立場としては、上司にフィードバックを受けに行く、適切なタイミングで報告に行くことを心がけるべきでしょう。成果を上げている会社は、このような当たり前のことがしっかりできています。
フィードバックはタイミングも大切です。思いついた時に質問したり、フィードバックしたりすると、相手は不意を突かれて混乱を招きかねません。できれば、「2週間に1度、火曜日の15時から30分、定例でミーティング」など、スケジュールを組むことが望まれます。
中長期的なフォロー
ケースにもあったように、大口契約が決まったりした当初は社内の注目が集まっており、メンバーのモチベーションも高いものです。ただ、そのエネルギーを維持するのが難しい。
時間の経過とともに、エネルギーレベルは一般に図のように推移します。出発点では中心人物以外はエネルギーレベルが低く、スモール・ウィンを積み重ね、社内で認められる存在になると注目も集まり、エネルギーレベルが急速に上昇します。しかし放っておくと、しばらくは惰性で維持できたとしても、熱が冷めると一気に下降の一途をたどるわけです。
エネルギーの低下はある程度は不可避だと思いますが、フォローを継続することで、規律の緩み具合や、不足しているリソースの状況などを把握することができます。まずはフォローを通じて現状を把握し、次に打つ手を考えるようにしましょう。
年間を通じて、コンスタントに経営陣がフォローし続けるという好例を紹介しましょう。アメリカのエマソンは、GEなどと並び「最も賞賛される企業ランキング」上位に名を連ねていたメーカーです。『エマソン妥協なき経営』(チャールズ・F・ナイト著、ダイヤモンド社)によれば、同社では精緻な計画を立て、精緻にフォローし続けることで、実効性を極限まで高める手法を取っています。
「我々は計画策定と管理に多くの時間を投資しています。たとえばCEOは計画策定に半分以上の時間を割き、COOや他の本社経営幹部は計画策定と管理にそれ以上の時間を使っています」
CEO自らが計画策定と管理、つまりフォローに時間を割いています。その上、その計画は現場主導型です。
「直接の担当者が計画を策定するため、戦略立案と戦略実行の間のギャップを排除することができます。計画の準備、会議体での議論、そして計画の練り直しは、事業部において強い団結したチームをつくるためにも大変重要です」
なぜこのようなことを行っているかというと、その営み自体が「エマソンの経営哲学や思考法の教育を将来の経営幹部に対して行う」教育プロセスになっているからだそうです。
そんな強力なトップがいないとしても、本来、フォローは現場に近い人の方がやりやすく、また、できることもたくさんあるはずです。
KPIの確認をする会議が、ただ数字を確認するだけの会議になっていないでしょうか。現場を見に行くと言っても、何の仮説も持たず、ただ行くだけになっていないでしょうか。適切で効果的なフォローをするには、数字を含めて現状を正しく理解し、仮説を持っていくことが最低限必要です。
さらには、モチベーションを上げるようなメールを定期的に書く、毎日声をかけに行く、たまには飲み会を設定するなど、地道な積み重ねが重要です。
私もあるプロジェクトが停滞時期に入った時、毎日朝晩、メールを書いていたことがあります。メンバーから必ずしも返事が来たわけではないですが、後になって、「ペースメークになった」「気持ちが伝わってきた」との感想が寄せられました。
いずれにせよ、メンバーのモチベーションを保つには、プロセス面、心理面など様々な視点からの仕掛けが必要となるのです。
(本項担当執筆者:田久保善彦 グロービス経営大学院研究科長)
『社内を動かす力』
田久保善彦(著)、ダイヤモンド社
1620円