『法人営業 利益の法則』から「時点間でのメリハリ(カスタマイズ取引では持ち出し、その後の別取引で儲ける)」を紹介します。
多様なニーズの顧客を相手にするBtoBのビジネスにおいては、事前に利益化のシナリオを描くことが非常に大切になります。典型的な利益化のシナリオとしては、(1)マス・カスタマイズで単一取引において確実に儲ける、(2)バンドリングする(カスタマイズと標準品をセットにする)、(3)「知恵のなる客」から学び他の顧客に横展開する、そして今回紹介する、(4)時点間でメリハリをつける(初期は持ち出しでもいいが、後に収益性の高い製品・サービスで儲ける)などがあります。
最後の時点間のメリハリは非常によく用いられる手法ではありますが、落とし穴もあります。「いいとこ取り」だけされて取引を打ち切られてしまう、初期の顧客満足が上がらずに単価も上がらない、などです。そうした落とし穴に嵌っていないかにも注意しつつ、組織内で、その顧客からどのように儲けを出そうとしているのかのシナリオと現状をしっかり共有し、適切な打ち手を都度講じていくことが求められます。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
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時点間でのメリハリ(カスタマイズ取引では持ち出し、その後の別取引で儲ける)
この手法は、カスタマイズ取引では採算性よりも、特定顧客との関係深化を優先し、一つの顧客から時間をかけて儲けていくアプローチです。図にあるように、まず未取引の顧客と何らかの形で接点を作り(①エントリー客をつかむ)、そのうち有望顧客に対しては、カスタマイズ取引を通じて関係を一気に深化させます(②顧客との関係を深める)。この段階では提供企業側の「持ち出し」である場合が多いのですが、安定した関係を築いた後に、利幅の大きい取引(主に標準品取引)を取り込むことで、時間と共に「持ち出し」分が回収されていく(③利益を生み出す)というイメージです。
具体例で言えば、IT系や人事系のコンサルティング会社は、このアプローチを好むようです。戦略面でのコンサルティングは、プロジェクト金額のわりに、優秀なコンサルタントを何名も長期間投入しなくてはならず、どちらかといえば採算が悪い案件になりがちです。しかし、クライアント企業幹部との信頼関係も深まりますし、先方社内のさまざまな制度や社風なども手に取るようにわかるので、その後のプロジェクトの提案や実行において有利な立場をもたらしてくれます。
一方、システム構築や人事制度構築といったコンサルティングは、一案件あたりの金額が桁違いに大きく、カスタマイズ要素をうまく抑えることさえできれば、非常に高採算の案件となります。そこでコンサルティング会社は、まず小口の案件でクライアントとの関係を築いた後、戦略領域のプロジェクトを取り込んで顧客企業との関係を深め、その後、自社が得意とするシステム構築や人事評価制度構築などの大規模案件の受注につなげて、しっかりと元を取るのが一つの定石になっています。
法人向けビジネスの現場では、この「時点問でメリハリをつける」アプローチは非常によく見かけられます。背景には、消費財に比べて法人間取引の付き合いは継続性が高く、「持ち出し」と「利益獲得」のポイントを分けていく余地が大きい点があります。また他の利益化パターンに比べて、自社の製品戦略や顧客ポートフォリオ全体に手を入れる必要性が低いため、営業マン単独でも実行しやすいという点もあります。
法人営業に携わる読者の皆さんにとっても活用余地が大きいはずなので、ぜひご活用ください。ただし、バンドリングの項で述べたように、カスタマイズ取引の時点で、顧客企業に将来の標準品取引を強制するような方法は、抱き合わせ販売に該当するおそれがあるので、不公正のないように注意する必要があります。
(本項担当執筆者:山口英彦 グロービス経営大学院教員)
『法人営業 利益の法則』
山口英彦(著)
1382円