『財務諸表分析 ゼロからわかる読み方・活かし方』――財務諸表分析の基本をコンパクトに凝縮 

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筆者の溝口聖規氏は、公認会計士としてさまざまな企業のコンサルティングを行うとともに、グロービス経営大学院で長年アカウンティング/ファイナンス系科目を教えるベテラン講師である。その筆者がこれまで多くのクラスを見てきた実感として、MBAコースを学ぼうと志す受講生の中ですら、会計に苦手意識を持っている人は少なくないという。

どうしてそうなのか。筆者は、会計を学ぼうとすると一から全部を理解しなければと重く受け止めすぎてしまう、つまりハードルを高く設定してしまうのが1つの原因だと仮説を立てる。そして、会計を携帯電話にたとえ、「どういう仕組みで通話やメールができるのか、説明できなくても通常困ることはありません。普段自分が必要とする機能の使い方を知っていれば十分でしょう。会計も同じです」と説く。

とても共感できる導入である。まずは財務諸表のどの辺に着目すればいいのか、どんなことが分かるのか、そしてそれがビジネス上どんな役に立つのか。そうしたおよその見当がつくようになることが第一歩なのだ。もちろん、実務で本格的に活用していくには詳細な理解も当然必要になってくるから、およその見当さえつけばそれでいいのだと安易に捉えるとすれば、それは禁物だ。しかし、そもそも会計に対して興味が湧き、「こんなことが分かるのか、とすると、こういう場合はどうなのだろう?」といった気持ちの変化、動機づけが起こらないと何も始まらない。大人になってからの「学び」全般に共通するポイントだろう。

本書では、特に前半の財務諸表3表(貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書)の読み方を解説するパートにおいて、身近な例を引きつつ大づかみに要点を伝えようという筆者のサービス精神が溢れている。

その上で、売上高営業利益率、流動比率やROEといった財務指標の解説から、実例を元にした財務分析について触れた後半パートからは、グッと佳境に入ってくる。大手航空会社のANAとLCCのピーチ、トヨタや日産とSUBARUとの違い、パナソニックとソニーを事業セグメントに分けてみたときの特徴等々、実在の企業の財務データを例にとり、それぞれのビジネスが、財務諸表においてどのように表れるかを紐解いていく。

そして終盤の、有価証券報告書の注記情報や、IFRSなど近年のグローバル化の流れについて解説したパートに至っては、決して単なる「初心者向け」の枠には留まらない、骨のある内容となっている。

新書版という形式でありながら、財務諸表分析の基本がコンパクトに凝縮された1冊である。マネジメントとしてビジネスを動かしたいと志している一方で、会計に苦手意識のある人は、その苦手意識を払拭し理解を深めていくためのきっかけとして、ぜひ手にとっていただきたい。
 

『財務諸表分析 ゼロからわかる読み方・活かし方』
グロービス(著)、溝口聖規(執筆)
PHP研究所
本体890円+税

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