『アメーバ経営』――ベストセラー本から経営のための会計を学ぶ 

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京セラの「アメーバ経営」をご存知だろうか。創業者の稲盛和夫氏が開発した、小グループで採算性を高める組織運営方法だが、それを支えた独自の会計ルールが存在していたことはあまり知られていないかもしれない。この会計ルールをさらに踏み込むと、単なるルール決めではない「会計思想」が見えてくる。実際、稲盛氏は「アメーバ経営」とこの本にまとめている「会計思想」が京セラを支える経営基盤であると言い切っている。

同氏が徹底しているのは、「経営はいかにあるべきか」という立場から会計を理解しようというスタンスだ。「会計のルール上、こうなっている」という説明だけでは一切納得しない。経営状況がそこに正しく表れているのか、に徹底的にこだわるのである。

私が特に印象に残ったエピソードの1つが、セラミック粉末を成型する設備の減価償却についての話だ。本設備の耐用年数は12年と大蔵省の規定で決まっていたが、実際にその設備が使えるのはその半分の5、6年であった。通常なら本設備を12年で償却した決算書を作成するが、同氏は「使えなくなったあとも償却を続けることは経営の道理に合わない」と法定耐用年数を使うことは最後まで認めず、社内で「自主耐用年数」を別途定めて償却を行っていた。

経理担当者の読者がいたら絶句するだろうが、現場にこのような細則を徹底する負担たるや相当なものだ。しかしそのような事務方の戸惑いには目もくれず、実際には使えない設備によって資産が膨らんで見えてしまう経営上の危険性を重視した。たとえ諸表上の資産が減ずることになっても、利益が過少になっても、それこそ事実であり、だからこそ事実を示す数字の成り立ちに目を凝らすことが重要なのだという思想が伝わってくる。

最終的に同氏は経営のための会計を実践していく際に必要な7つの基本原則を「実践的基本原則」としてまとめているが、そのいずれもが同氏が経営の本質に対峙することから生み出した原則である。この原則は必ずしも全ての企業にそのまま当てはまるものではないが、「経営と会計とを結びつける」という点ではとても参考になる。

私自身、グロービス・マネジメント・スクールの会計のクラスを担当する際には、初日に必ずこの本を受講生に紹介するようにしている。会計というと、経理部が作る数字の世界だと思われやすいが、会計とは経営を貫く思想をルールとして徹底的に具現化するプロセスであり、意思決定の対象であり、つまりはしびれるような経営の営みそのものであることが分かる。そういう意味では、会計に興味がない方にもぜひ手に取ってほしい1冊である。


『アメーバ経営』
稲盛和夫(著)
日本経済新聞出版社
700円

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