自分は何者になりたいのか、どのような人生を生きたいか――
誰もが人生で一度は向き合う問いの1つだろう。同時に、誰もが言葉を詰まらせる問いでもある。問いへの正解を求め、発達論や特性因子論、パーソナリティや社会学など様々なアプローチからキャリア理論が展開されているが、未だ統一の見解は得られていない。人生に唯一絶対の正解はない、ということだろう。
今回紹介する『LIFE DESIGN』は、私たちに強烈な発想の転換をもたらす。それは「正解がない人生には、正解を出さないままに向き合う」というものだ。そのカギとなるのは「デザイン思考」だ。本書のユニークな点は、人生やキャリアの設計にこのデザイン思考を取り込んだことだ。
「デザイン思考」は、デザイナーの視点でビジネスを捉え、従来の延長線上にない新しい発想でイノベーションを起こす手法として知られている。デザイナーは世の中にまだ存在しないものを生み出し、世界を変える。つまりデザイン思考をキャリアの設計に取り込むことで、まだ存在しないキャリアを生み出し、未来の自分を変えるのだ。
具体的な手法は本書の説明に委ねるとして、ここではキャリアの設計にデザイン思考を取り込む上で重要なマインドセットについて紹介したい。キーワードは「好奇心」「行動主義」「視点の転換」「認識」「過激なコラボレーション」の5つだ。
「好奇心」は、物事を新鮮な目と遊び心で捉え偶然を引き寄せる。「行動主義」はとにかく“やってみる”ことだ。プロトタイプをつくり、失敗しながらも前進する。「視点の転換」は、固定観念を捨て問題を別の角度から見直すことで行き詰まりから脱すること。「認識」は、人生はプロセスだと理解すること。そして「過激なコラボレーション」は、他者が最高のアイデアを握っている可能性に気づき、助けを借りることだ。
これらの要素は、20世紀末にスタンフォード大学のクランボルツ教授が提唱した「計画的偶発性理論」が重要視するマインドセットに酷似する。同理論では、「キャリアの8割は予期しない偶然の出来事で形成される」とした上で、偶然を自ら創り出し、意図的にキャリア開発の機会につなげるために「好奇心」「持続性」「楽観性」「柔軟性」「冒険心」の5つに価値を置く。
表現に違いはあるが、デザイン思考が重要視するマインドセットと本質的な意味合い-足を動かし他者とつながりながら、人生に偶然を取り入れ変わり続ける-は同じだ。これは偶然ではない。
キャリアの名著『イノベーション・オブ・ライフ』でクリステンセン教授は、事業戦略と同様に人生でも、意図的戦略と創発的戦略のバランスを図ることが重要だと言う。前者は計画性を、後者は偶発性を重んじる。そして予期できない出来事の割合が高い時期には、創発的戦略を採り“人生で実験せよ”と助言する。
VUCAワールドと表される予測不能な時代の幕は既に上がっている。主体的にキャリアを切り開き、たった100年ばかりしかない人生を楽しむために、私たちはまず生き方に対するマインドセットを時代に適応させることが求められている。
人生は1年の積み重ねだ。まずは「どのような自分で、どのような2018年を過ごしたいか」を考え始めるためにも本書をおすすめしたい。「騙されたと思って読んでみる」くらいの心持ちが、ちょうどいい時代なのかも知れない。
『LIFE DESIGN(ライフデザイン)――スタンフォード式 最高の人生設計』
ビル バーネット (著)、デイヴ エヴァンス (著)、 Bill Burnett (著)、 Dave Evans (著)
早川書房
1,728円