『人生100年時代の新しい働き方』――五感を磨きライフシフターとしてキャリアを形成するために 

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昨年末に発売され今年ベストセラーとなった、リンダ・グラットンの『LIFESHIFT』。今の時代を生きる我々が迎える環境変化や、これから求められる働き方がまとめられた本だ。その中で提唱された「人生100年時代」という言葉はビジネスや政治など様々な場面で使われ、今年の流行語大賞にノミネートもされた。一方で、言葉だけが独り歩きし、不安を煽るような空気を纏ってしまっていたことは否めない。AIを始めとしたテクノロジーの進化において「将来なくなる仕事一覧」といった、より危機感や焦燥感を駆られるような話題も至るところで目にする。

本書は、この『LIFESHIFT』によってもたらされた「不安」の要因にずばりと切り込みながらも、想いを持ち、明るい未来を描くことの大切さと、『LIFESHIFTER(ライフシフター)』としてのキャリアの創り方が力強く書かれている。そして、これから求められる働き方を実現するために、誰しもがすでに持っている「力」に注目したのが新しいポイントだ。

著者はそれらの力を「5つの力と14のスキル」に分け、具体的な磨き方をなんと五感(視覚/聴覚/触覚/味覚/嗅覚)に即した形でまとめている。「視覚や聴覚はなんとなくわかるとしても、ビジネススキルとして味覚?触覚?」と一瞬は面食らうが、著者の様々な経験やエピソードから紡ぎだされたその力は、人間の感覚機能としての「五感」という表現がまさに的を射ており、魅力的なビジネススキルそのものだと感じられる。

「危険を嗅ぎとる」「肌感覚」「味わい深い人」等々、もともと五感に即した表現は多々あり、ビジネスシーンでも使われてきた。ただ、こういった「ソフトスキル」はその身につけ方や再現性があまりにもパーソナリティに寄り過ぎているため、なかなか体系立てて取り入れることは難しかったのが実情ではないだろうか。しかし本書に書かれたそれらのスキルを「磨かなくては」「取り入れてみたいな」と思ってしまうのは、著者が体現しているキャリアが、「ライフシフター」そのものであることも大きな裏付けとなっている。

人工心臓の研究者から経営コンサルタントへ、そして世界的なNPOとなっている「TABLE FOR TWO」を立ち上げた起業家である著者。経歴だけ見ると華々しく感じられるが、まだ社会起業家という言葉が浸透していなかった当初は、NPOそのものへの不信感からか「怪しい団体」と評されたり、様々な苦労があったという。そんな中、困難を打ち破り、人を巻き込みながら事を成すことができたのは、コンサルタント時代に鍛えられたロジカルシンキングや分析力といったハードスキルだけではなく、上記のようなソフトスキルだったと振り返っている。

特に、私が最もこれからのビジネスパーソンが身につけていくべきだと感じたのは「味覚」の力として書かれている「Not My Taste」だ。味に好みを持つように、仕事でも「好き」を特別扱いすることで、高いパフォーマンスを出すことに繋がることを説いている。仕事に好き嫌いを持ちこむこと、選り好みは、組織で働く者にとっては最初躊躇してしまうかもしれないが、「好き」と「得意」はリンクし、生産性向上の元にもなる。そのためには、自分自身は何が好きで何が嫌いなのかをはっきりさせること、そして「好き」といえる場所や仲間を得ていくスキルは、長く続く人生において必須のものとなるだろう。

個人的には、好き嫌いが激しいという自身の性格はビジネスシーンでは隠すべきと思っていたが、逆に「好き」を尖らせ、「嫌い」を見分けていきたいと、素直に感じることができた。

「ライフシフター」として生きる著者のような働き方、キャリアの創り方を憧れる人も多いが、逆に「自分とは違う世界だ」と敬遠してしまう人もいるかもしれない。しかし、すでにこれからの時代には、求められていく生き方なのだ。漠然と、今までと同じ仕事、同じやり方だけを続けていくことの方がリスクであり、「不安」が付きまとう可能性が高い。

著者の前作『社会をよくしてお金も稼げるしくみのつくりかた』でも、ビジネスモデル以上に「想い」を大切にすることが書かれていた。人間が持つ元々の感情、感覚を大切にしながら、それを磨き、自分の力を信じながら「働き方」を創っていくこと。必要性や危機感から変化を煽るのではなく、そのプロセス自体に「楽しさ」も感じられる書籍からは、キャリアのヒントや勇気も一緒に得られるだろう。

 

『人生100年時代の新しい働き方』
小暮真久(著)
ダイヤモンド社
1620円

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