昨年11月発売の『経営を教える会社の経営』から「EPILOGUE幸福経営の実現に向けて 3.幸福経営の実現」の一部を紹介します。
前回も触れたように幸福を感じながら働くことは人生を非常に実りあるものにします。そしてそのためにはいくつか意識すべき要素があります。本書では合計9つのファクターを挙げていますが、今回ご紹介するのは①自分らしさ、②人生の目的、③可能性への信頼、④周囲との繋がりの4つのメインファクターです。
人によっては青臭い議論のように見えるかもしれませんが、やはりこられが担保されていないと人は幸福を感じにくいものです。そしてこれからの時代をサバイブできるのは、(経営環境の変化をしっかり把握し、正しい戦略を構築・実行できるという前提は必要ですが)人々が幸福感を感じながら働ける組織です。ぜひ皆さんの組織でも参考にしてください。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、東洋経済新報社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
幸福経営にて押さえるべき要素
私なりに幸福経営の実践を試みる中で、個々人に幸せを感じて頂くにあたり押さえるべき4つのメインファクターと、そこから派生して出てくる4つのサブファクター、それら8つを循環させるための不可欠なシークレットファクターの計9つの要素が浮かび上がったので、それを紹介します。
まず、個人の幸福に不可欠と考えるメインファクターは、次の4つです。
- 自分らしさ
- 人生の目的
- 可能性への信頼
- 周囲との繋がり
まず1つ目の「自分らしさ」は、素のままの本来の自分を活かす姿勢です。社会人になり、会社組織に入ると、どうしても与えられた役割を演じるために自分らしさというものを見失いがちになることがあります。本来の自分とは異なる自分を創り出して肩肘を張っている状態は一時的にはできたとしても、毎日持続させようと思うと、徐々に疲弊してしまうものです。人には皆、その人ならではの良さが元々あるわけですから、それを活かさない手はありません。そのためにも、周りに流されることなく、まずは「自分らしさ」についてしっかりと自己認識することが大切です。
「自分らしさ」の発見にあたっては、自分が大切にしている価値観を棚卸しする営みが有効です。昨今注目を浴びているリーダーシップスタイルにオーセンティック・リーダーシップと言われるものがあります。これは誰かの真似をするのではなく、自分の考えや価値観を活かすリーダーシップのことを指しますが、リーダーシップ論においても「自分らしさ」を大切にすることの重要性が謳われています。
2つ目は「人生の目的」です。これは正に、生きる意味そのもののことです。人生の目的を究極的に突き詰めると「幸せであり続けること」になるため、もう少し具体化した目標や志でも構いません。自分がその目的のためであれば、何を差し置いても頑張れると思えるような、それを目指してさえいれば生きがいを感じられるような目的・目標を見出すことができれば良いです。この「人生の目的」は、1つ目の「自分らしさ」を認識するために必要な価値観とも密接に繋がる可能性が高いので、自分の価値観を追求し続ける先に見えてくることもあると思います。
そして3つ目は、「可能性への信頼」です。私たちグロービスは「可能性を信じる」と言う言葉をよく使いますが、いかに自分の可能性に勝手に蓋をすることなく、「無限大の可能性を信じる」ことができるかが肝心です。そのためにも、周囲ができる関与としては、前向きな言葉をかけてあげることや、小さくてもよいので成功体験を積み重ねられるような業務アサインをしていくことです。そうしたことで、少しずつでも自己効力感を育んでいくことが有効です。
それから4つ目が、「周囲との繋がり」です。幸福に関する数々の研究で、他者との良好な繋がりを持つことの重要性が明らかにされています。人間は社会的動物であるが故に、人の生活の質は大きく社会的関係性によって形成されるのです。逆に言えば、孤独死というものがある通り、人間は孤独では生きていくことさえ困難な生き物です。よって、組織の中でもいかに周囲の人との良好な人間関係を沢山構築させられるかを経営として配慮していくことも必要なのです。
『経営を教える会社の経営: 理想的な企業システムの実現』
著:グロービス 、 内田圭亮 発行日:2023/11/8 価格:1,980円 発行元:東洋経済新報社