『ビジネス仮説力の磨き方』から「仮説を再構築/肉づけする」を紹介します。
仮説は最終的に具体的な行動に落としこまれる必要があります。ビジネスは行動に結び付いてこそ価値が生まれるからです。仮説思考がある程度身についてくると、かなり初期の段階からでも行動に踏み込んだ仮説を構築できるようになるものですが、慣れないうちは、まずはざっくりとした「仮説の卵」を作り、それを順次検証しながらより詳細かつアクションオリエンテッドな仮説に進化させていくと効果的です。ただし、昨今は経営環境の変化が速いですから、この仮説を進化させる時間は極力短縮させる努力が必須です。場合によっては実際にビジネスを進める過程でどんどん進化させる必要性も生じます。とはいえ、ここまではあくまで手段であり、結果を出すことこそ目的であるという点は忘れないようにしましょう。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
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仮説を再構築/肉づけする
当初提示した仮説は、それが検証されれば、さらにより具体的な仮説として肉づけしていきます。そしてその肉づけされた(進化した)仮説をさらに検証します。通常、ビジネスにおいては、後段になればなるほど、より大がかり、かつ緻密な検証が必要になってきます。
一方、仮説が否定された場合は、いったん最初の仮説に立ち返って、新しい仮説を立てたり、仮説を微修正したりします。
仮説を肉づけしていく
仮説の肉づけについてもう少し細かく考えてみましょう。肉づけとは、最終的により具体的なアクション(HOW)につながっていくように、仮説を具体化することです。この具体化という作業がないと、最終的に組織は動かないからです。
たとえば、「A社の技術を手に入れるべし」という仮説がある程度検証されたら、今度はその方法論を考え、「A社の技術を手に入れるには○○のやり方が望ましいだろう」という仮説を立て、今度はそれを検証していくのです。
あるいは、人事考課制度として、成果主義を導入することを従業員の大多数が望んでおり、人件費のコントロールもしやすいということが検証されたケースを考えてみましょう。ここで拙速に、「成果主義」というキーワードだけを念頭に、他社のやり方をそのまま持ってきては、それまで考えたせっかくのアイデアが無に帰してしまいかねません。人事制度の変更は大きな意思決定ですし、制度と運用の両方がしっかりしていないと骨抜きになってしまいますからその両方を念頭に、自社に合ったやり方の仮説を立てる必要があるのです。
具体的には、まず、導入範囲やセットとすべき施策(人材育成制度)といった大枠の方向性について仮説を作り、それを検証します。
そしてそれを踏まえて、より詳細な方法論の仮説を作り、その有効性を確かめていきます。スケジュール(移行措置)、評価方法、報奨との連関、考課者のトレーニング、周知徹底の仕方、レビュー方法などについて「うちの会社の特性を考えると、これなら機能するだろう」という仮説を立て、社内外のヒアリングなどを通じて、その妥当性を検証するのです。このテーマであれば、導入前にすべての詳細を詰めることは難しいでしょうから、テスト的に走らせてみながら検証するという方法論も必要になるでしょう。
フレームワークを活用する
仮説の肉づけの際にも、フレームワーク(枠組み)は大きな力を発揮します。マーケティングの具体的施策であれば、ターゲティング―ポジショニング―4P(Product、Price、Place、
たとえば、新成分を利用した機能性のお茶が中年女性向けに受け入れられそうだということがわかったとします。であれば、「どうすれば他社と有効に差別化できるか(ポジショニング)」を念頭に、商品パッケージや商品名、価格、販売ルート、広告・プロモーションについて考えていくと、効率的に肉づけをすることができるようになります。
仮説の肉づけにあたっては、先のラフな仮説を検証する際に入手した情報や分析結果を最大限に活用しましょう。ひょっとすると、その際にインタビューした人に、新しい仮説構築のディスカッションパートナーをお願いできるかもしれません。
第2章では、仮説は必ずしも当たる必要はない、と書きましたが、プロセスの後半になれば(具体的な施策やアクションに近くなれば)そうも言っていられません。自分自身の経験や、さまざまな知識を総動員して、より妥当性、説得力の高い仮説を搾り出すべくエネルギーを使ってください。柔軟な発想力以上に、しっかり考え抜くことの重要度は上がっていきます。
(本項担当執筆者:嶋田毅)
『ビジネス仮説力の磨き方』
グロービス経営大学院/嶋田毅 (著)
1600円(税込1728円)