今年11月発売の『経営を教える会社の経営』から「CHAPTER1複雑系の経営 1.進化し続ける経営」の一部を紹介します。
グロービスはもともと、エンジニアやデータサイエンティストといった職種の人材はいない組織でした。必要があれば適宜外部のパートナーと協力することでシステム開発などを行ってきたのです。しかし、AIやビッグデータが重要度を増す現在、そのままでは勝ち残ることができません。自らを徹底的にテクノベート化(一般にはDXともいわれます)し、テクノロジー志向の会社になることが2020年代をサバイブするうえで必須なのです。
日本の多くの企業は自らエンジニアを採用することはあまりなく、外部のSIerにほぼお任せということがまだ少なくありません。グロービスはそうしたやり方とはいち早く決別し、テクノロジー企業に向けて大きく舵を切ったのです。これも「進化し続けないと負ける」という意識が徹底しているからといえるでしょう。 (このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、東洋経済新報社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
業界に先駆けたDXを加速させるテクノベート
ベンチャーキャピタル事業の代表も務めている堀(グロービス代表:堀義人)は、2014年頃から、起業家として成功するために必要な資質やスキルが明らかに変わってきていると感じていました。「先端テクノロジーを使って従来とまったく異なるビジネスモデルを構築すること」へと経営の中心テーマが進化し、インターネット、AI(人工知能)、ロボティクスなどのテクノロジーを理解し経営に取り込みながら優位性を築く力が従来以上に一層求められてくる、ということでした。グロービスが従前より提供してきたMBAにおける経営リーダーに必要な要素は、マネジメントの知識や理論(ビジネス・フレームワーク)、考える力(コンセプチュアル・スキル)、人間関係能力(ヒューマン・スキル)の3つに大別されますが、これをアップデートする必要性を強く感じたのです。
そこで社内外の有識者を巻き込みながら一連のリサーチを行った結果、浮かび上がった2つの重要なキーワードが“テクノロジー”と“イノベーション”でした。堀はこの2つの言葉を組み合わせた「テクノベート」という言葉を生み出しました。
2016年に発表した新年の方針は、「グロービスは、自らを『テクノベート』し、リアルとネットを融合した『エドテク(Ed Tech)』ベンチャーに進化する!」というものでした。この方針に基づき、グロービスが提供する教育カリキュラムの内容自体にテクノベート要素をふんだんに盛り込んでいくことにしたのです。この時から次々と、AI、ICT、IoT、ネットビジネス、サイバーセキュリティといったテクノベート科目の開発を急加速させました。
また教える内容だけでなく、教え方・学び方自体もテクノベート化すべく、デジタル・プラットフォーム事業を立ち上げて、新たに「テクノロジー職」を新設しました。
この方針に基づき、「GLOBIS 学び放題」や「GLOPLA LMS」という新サービスの開発、そして将来の新しい学び方を研究するための「グロービスAI経営研究所」を設立しました。AIを経営教育にどのように活用できるかは、まだまだ発展途上ではあるものの、画期的な研究成果も出てきており、既にグロービス経営大学院はAIに関する特許を2件(AIによる自然言語テキスト解析エンジン「GAiDES(GLOBIS AI Document Evaluation System)」と「GAiL(GLOBIS AI Learning)」を取得しています。
これらの研究成果を活用して、直近では「ナノ単科」という“動画とAIで学ぶMBA単位”も生まれています。直近では、ChatGPTがAPIを公開した翌日にはGAiChaL(GLOBIS AI Chat Learning)という世界初の動画とAIを活用した対話型の教育システムを実装し、ナノ単科の学びをより充実化させることを実現しました。
2016年には1人もいなかったテクノロジー職が、2017年以降6年間で社員だけで約80名(業務委託社員を含めると200名超え)となり、一気にテクノロジーカンパニーへと進化を遂げています。 グロービスではこれまでも業界のDXを加速させる営みを先駆けて取り組んできましたが、今後は「テクノベート時代における世界No.1 MBA」を目指して、より一層の進化を遂げていく予定です。
『経営を教える会社の経営: 理想的な企業システムの実現』
著:グロービス 、 内田圭亮 発行日:2023/11/8 価格:1,980円 発行元:東洋経済新報社