昨年12月発売の『ベンチャーキャピタルの実務』から「Chapter9 Section0 VC『冬の時代』に生まれた行動規範」を紹介します。
企業には独自のビジョンや経営理念、あるいはそれらを実現していくうえで大切にしたいと考える価値観や行動様式を示した行動規範(行動指針)が存在します。多くの企業ではこれらは明文化されて構成員に示されるとともに、経営者やマネジャーの言動などを通じて組織全体への浸透が図られています。特に行動規範は日々の業務の進め方にも直結するものであり、より身近な存在と言えます。
こうした要素があるのはベンチャーキャピタルでも同様です。日本ナンバー1のハンズオン型VCであるGCPでは、リーマン・ショック後のVC冬の時代にメンバーが集まり、改めて行動規範「ベンチャーキャピタリスト十二訓」を言語化しました。これはGCPキャピタリストのあるべき姿を示すものでもあり、現在に至るまで用いられています。
「ベンチャーキャピタリスト十二訓」の内容は非常にユニークであり、まさにこれを実現することがGCPの独自性や競争優位にもつながっています。多くの企業にも学ぶところが多いと思われますので、ぜひそのこだわりや創意工夫などを味わってみてください。 (このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、東洋経済新報社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
VCの冬
この章で紹介する「ベンチャーキャピタリスト十二訓」を作成したのは2009年。VC産業が縮小し、冬の時代の真っただ中にあった。
序章で、日本のVC業界における動向を概観したが、市場として大きく落ち込んだ時期である。2006年にITベンチャーの旗手と目されていたライブドアが証券取引法違反の罪に問われ、株価暴落を招くというライブドア・ショックが起こり、ベンチャーへの風向きが厳しくなっていった。VCファンドの投資総額は2006年の年間約3,000億円をピークに、2008年のリーマン・ショックを経て2009年には1,000億円を切るところまで一気に落ち込んだ。 2006年には年間200件近かったIPO件数も2009年に19件にまで急減。さらに2011年には東日本大震災に見舞われた。2013年に安倍晋三政権が打ち出したアベノミクスで経済が復活するまで、低迷期から抜け出せなかった。
ハードシングスを乗り越える
GCPは2006年に180億円のファンドを集めたばかりで、投資する資金はあったものの、IPOによるエグジット機会は見込めず、株価も低下を続けていたので投資すべきタイミングを見定める状況が続いた。周囲では多くの同業者がオペレーションを停止や縮小し、市場から次々と退出していく。その中でGCPではオフサイトで合宿を行い、自分たちがなぜVC事業をやっているのか、自社のミッション、ビジョン、バリュー、レゾンデートル(存在意義)について議論した。
ベンチャー投資では、外部環境や競争環境をはじめとして、組織の拡大、人員の変化など、エグジットまでに様々な要素がダイナミックに変わっていく。その中で、中長期を見据えて経営を継続させることは、経営者はもとより、投資家としても根気や覚悟が求められる。起業家が直面する数々の困難な局面は「ハードシングス」と呼ばれる。特にリーマン・ショックやコロナ禍のように、出口がまったく見えない状況になると、言いようのない不安に襲われるものだ。
VCは平時でも十分に不確実性の高いビジネスに分類されるが、そうした有事において、キャピタリストはどうあるべきなのだろうか。自分たちの指針になるように、ベンチャーキャピタリストとしての行動規範を作成しようという話になった。そしてできあがったのがこの十二訓だ。 以下、ソーシングから始まり、契約内容を交渉し、投資の意思決定を行い、投資先を支援して数年前後の長い伴走時期を経て、エグジットにまで至る、VCファンドの活動に沿って並べているので、迷ったときに参照してほしい。
著・編集:グロービス・キャピタル・パートナーズ (著), 福島 智史 (編集) 発行日:2022/11/25 価格:3,740円 発行元:東洋経済新報社