昨年12月発売の『ベンチャーキャピタルの実務』から「Chapter7 Section2 ファンドレイズの準備」を紹介します。
VCにとって新しいファンドを組成するファンドレイズは、投資案件の発掘や投資先支援などとは全く異なる難しさがあります。ここで苦戦するようだとVCの経営チームであるGP(ゼネラル・パートナー)の貴重な時間を奪うことにもつながり、既存ファンドのリターンにも影響を与えかねません。
ファンドレイズを容易にする最もシンプルな方法は、過去のファンドからの投資実績をコンスタントに上げることです。たとえばコンスタントに5倍以上のリターンを生み出しているファンドであれば、潜在的な投資家に訴求するのも容易になるでしょう。ただ、現実にはそれは容易ではありません。リーマンショックや新型コロナのように、VCではコントロールしきれない外部要因もあるからです。
ただそれでも、他のファンドに比較して良いパフォーマンスを継続的に上げているVCは新しいファンドの組成もしやすくなります。
一方で、やはりファンドのこれからの方針や、過去の実績に結び付いた意思決定等の内容を投資家にしっかり開示し、説明することも非常に重要になります。たとえば2号前のファンドが大きなリターンを出しそうだとしても、それが偶然に当たったものか、それともしっかりとした投資戦略ゆえに当たったのかでは、意味合いが異なるのは当然と言えます。VCとしては、持続的にリターンを上げ続けることができる優位性やケイパビリティがあることを投資家にしっかり説明することがとても大切なのです。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、東洋経済新報社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
ピッチブックの作成
ファンドレイズ活動を開始するときには、ファンドとしての戦略をまとめた概要資料(ピッチブック)を作成する。ピッチブックには今後の投資戦略を中心に、以下の内容を記載することが一般的だ。
これらを示し、過去・現在・未来の見取り図を描くようにしながら、なぜその戦略がうまくいくのか、なぜこのチームで実現できるのかを論理的に説明する。ピッチブックは外部の投資家への説明資料としてはもちろんのこと、その作成プロセスを通じてGP内で意思統一を図る材料にもなる。
目論見書(PPM)の作成
機関投資家や海外投資家を募集対象とする場合には、ファンドの主要条件に加え投資戦略やリスク要因、主要条件案をまとめた法的文書である私募目論見書(PPM:Private Placement Memorandum)を用意する。
なお、規制上の留意点や税務上の考慮点については募集対象となる投資家の所在国に応じて調整が必要となるため、グローバルな知見を有するアドバイザリーチーム(弁護士・税理士)との連携が肝要である。
なお金融商品取引法における「適格機関投資家等特例業務」(詳細は後述する)としてファンドを組成する場合、募集の対象は1名以上の適格機関投資家と49名以下の特例業務対象投資家(適格機関投資家ではない)に制限される。
50名以上の非適格機関投資家を対象にファンドの募集活動を行っていると目される行為を実施しないよう留意が必要だ。
データセットの提供
ピッチブックに興味を示した投資家には、過去の実績をまとめた「データセット」を提供する。提案書の内容を定量的に表した資料であり、おおむね以下の内容が含まれる。
ファンド毎に1件1件の投資結果を示した資料だけでなく、実際のLPからの払込状況、投資先への投資実行と回収状況、LPへの分配状況まで全取引を細かく日時別に時系列でまとめた資料を提出する。
ファンド全体としてのリターン水準も重要であるが、LPにとっては経年でのキャッシュフローベースのIRR (内部収益率)が重要な指標であり、その判断に必要なデータを整えておく必要がある。また、GPとしての競争優位性や投資委員会の規律ある運用について説明するため、投資担当者が捕捉した投資機会の数や市場における投資対象案件に対するカバー率、実際の投資検討数、投資委員会への上程件数・通過件数など、これまでの各章で議論した内容を数値的に捕捉できるデータを準備しておくことが重要である。
著・編集:グロービス・キャピタル・パートナーズ (著), 福島 智史 (編集) 発行日:2022/11/25 価格:3,740円 発行元:東洋経済新報社