昨年12月発売の『ベンチャーキャピタルの実務』から「Chapter5 Section4 継続的ファンドマネジメント」を紹介します。
ベンチャーキャピタル(VC)は1号ファンド、2号ファンド、3号ファンド……といったように、通常は10年の期間からなるファンドごとに投資を行い、最終的にリターンを確定させていきます。成功しているVCは概ね3年程度ごとに次のファンドを立ち上げることが多くなっています。イメージとしては、1号ファンドが終了する頃に4号ファンドを立ち上げるといった感じです。
なぜ3年程度ごとかというと、このようにファンド設立のタイミングを分散することで、投資フェーズ、成長フェーズ、リターンフェーズの投資案件を分散させることができ、キャピタリストの業務も平準化することが可能となるからです。たとえば1号ファンドがリターンフェーズに入った頃には2号ファンドが成長フェーズに入り、ちょうど3号ファンドの組成もできるというタイミングが好ましいわけです。
ただし、新しいファンドの組成は外部要因などに大きく左右されることが少なくありません。それゆえ当初の予定通りにファンドが組成できることはむしろ少なく、高い柔軟性が求められます。そしてそれを見極め微調整したうえで、既存のファンドにおけるベンチャー支援活動を行ったり、採用等VC自体の成長に向けたアクションを行ったりすることも必要になるのです。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、東洋経済新報社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
継続的ファンドマネジメント
VCファンド事業を継続させるために、1号ファンド、2号ファンド、3号ファンドという形で何年かおきに新しいファンドを設立していくと、時間軸で見たときに図のように重複して並走する期間が生じる。その間隔が適度であることが、ファンドを継続的に組成し結果を出していくうえで極めて重要になる。
というのも、新しいファンドをつくるときには、それ以前のファンドの進捗状況(有望なスタートアップに投資を行い、そのスタートアップが順調に成長しているか)を示すことができるかどうかでファンドとしての資金調達のしやすさが変わってくるからだ。出資するLP(特に機関投資家)は、先行ファンドの結果が時間軸対比で出ていない場合にはチーム及び各キャピタリストの実力を判断する指標がなく、安心して運用を任せることが難しい。
ファンド運営は大きく投資期、成長期、リターン期の3つに区分できる。間隔が短いと、投資期が重なり、どちらのファンドが投資をするかでコンフリクトが生じてしまうので、投資期が終わった段階(新規投資の組み込みが終了するタイミング)で、次のファンドが立ち上がる状態が好ましい。また、前々号のファンドからの収益の立ち上がりが見えていると、説得力を持って新たなファンドを立ち上げることが可能だ。仮にたとえば3号ファンドを設立するタイミングにおいて1号ファンドの投資家へのリターン分配状況が近い将来にコミットメント金額の1倍を見据える状況、2号ファンドでは各投資先の事業進捗が明確で、時価評価が十分に上昇していると、3号ファンドの設立に際しては投資家候補から好ましい反応を得られることが予想される。
VCファームにとって、ファンドレイズは投資活動の継続をかけた極めて重要で多くのリソースを割く活動であるが、可能な限りスムーズに進めリターンの最大化につながる投資支援活動の比重を高められることが重要になる。その意味でも、各ファンドのリターン出現タイミングをうまく調整しながら、適切なタイミングでファンドレイズを行う必要がある。そのときに直接影響を及ぼすのがポートフォリオの組み方である。言い換えると、ファンドレイズの段階でLPが出資判断しやすいポートフォリオの進捗状況にしておくことが、最大のポイントとなる。先ほど触れた時間分散の効果は最終的なファンドリターンに影響することはもちろん、次号・次々号ファンドの立ち上がり方にも大きく影響するのである。 とはいえ、スタートアップ投資は、不確実性が高くコントロールできない要素も多いため、一般的な事業会社と違って厳密に期開や予算の目標を立てるやり方は馴染まない。2~3年という時間枠で見ながら、なるべくアーリー・ステージだけでなくレイター・ステージの投資先も増やしIPOする投資先が出てくる時期を見計らってファンドレイズのタイミングを少しずらす、というように調整する。ポートフォリオに何を組み入れるかだけではなく、ファンドレイズも絡めて総合的に行う必要があり、この点においては既存ファンドのアンカー(主力)LPとも継続的に協議をしながら進めることが肝要である。
著・編集:グロービス・キャピタル・パートナーズ (著), 福島 智史 (編集) 発行日:2022/11/25 価格:3,740円 発行元:東洋経済新報社