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昨年9月発売の『改定4版 グロービスMBAアカウンティング』から「第4章3 コラム:ブロフィツトセンターか、コストセンターか」を紹介します。

利益責任を持つ組織をプロフィットセンターといいます。多くの企業では事業部をプロフィットセンターとし、各事業部に利益責任を負わせるのが一般的です。このやり方は単純でわかりやすい一方で、赤字を出している製品の特定が難しくなり、問題解決が図りにくいという弊害もあります。つまり、他の製品が黒字だと、そこに埋没してしまって赤字製品がわかりにくくなるのです。

そこで企業によっては、事業部単位ではなく、もう少し細かい単位にブレークダウンしてプロフィットセンターを設定することもあります。たとえば京セラの「アメーバ経営」では、バリューチェーンの各機能、たとえば製造や営業をきめ細かく切り分けてプロフィットセンターとすることで、どこに非合理的な個所があるかを特定しようとしています。ただ、その分管理費コストが増すといった問題もあり、運用は簡単ではありません。

また、中央研究所のように通常は利益責任を持たない部署をあえてプロフィットセンターとし、利益意識を持たせようとすることもあります。ただ、これもその趣旨をしっかり説明しないと、経営陣が望む方向とは逆の方向に動いてしまうこともあります。たとえば挑戦的な研究をしなくなるなどです。どの単位をプロフィットセンターとして組織を運営すべきかは、絶対的な解があるわけではなく、試行錯誤で探らないといけないのです。 (このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

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ブロフィツトセンターか、コストセンターか

一般的にはコストセンターとされる部門をあえてプロフィットセンターとすることがある。例えば広報部分や中央研究所などをプロフィットセンターとするなどだ。後者としては本田技研工業が、本田技術研究所を別会社としてプロフィットセンターとして扱ってきた例などが有名である。

こうしたプロフィットセンター化にあたってよく用いられるのが移転価格の制度だ。移転価格は社内移転価格あるいは振替価格と呼ばれることもある。これは、たとえ同じ会社の中であっても、あたかも企業間で売上が発生したように管理会計上扱うことである。移転価格中心に売上が計上されるプロフィットセンターを疑似プロフィットセンターと呼ぶこともある。なお、ここでいう移転価格の制度は、グローバル企業の租税回避のためのスキームとは趣を異にするので注意されたい。

広報部門であれば、各事業部から例えば売上の1%を移転価格としてもらい、広報部門の仮想の売上とする。そうすると、広報部門にも、「売上の1%を移転価格として取っている以上、その分のサービスを各事業部に提供し、かつ自部門も利益を出さなくては」という良い意味での緊張感が生じるのである。

コストセンターは往々にして利益に関する執着が弱い。また、コストを管理されるとはいえ、自分の仕事を減らされたくはないものだ。そこで予算策定段階で、本来は不要な費用も残そうとする傾向がある。そこをプロフィットセンター化することは、会社全体としてより利益に対するこだわりを持たせることにつながるのである。

一方で、それに伴うデメリットやリスクもある。ます、移転価格の設定が難しい。先の広報の例であれば、仮に全社平均的には1%が妥当だとしても、部門によっては「1%も取られた割にそれに見合う便益(広報に係る社内サービス)を得られたとは思えない」という部署もあれば、「1%でこのくらい頑張ってくれたならお釣りがくる」と思う部署もあるだろう。そうした濃淡はどうしてもついてしまうのである。それが不平不満につながると、会社の雰囲気は悪くなる。

移転価格が甘すぎたり厳しすぎたりして、モチベーションを削ぐケースもある。例えばある疑似プロフィットセンターが甘い移転価格で利益を出せることが確実な一方で、もともとのプロフィットセンターの利益が削られるとしたら、これも社内に不公平感を生む。逆に移転価格が厳しめに設定されているにもかかわらず、利益を出すことを強調されたら、部門としての士気は下がる。

「各事業部の売上の1%」といった大ざっぱなやり方ではなく、各プロフィットセンターとの「取引」ごとに価格をつけるという方法をとる場合もある。ただこれは煩雑さを増すし、価格の妥当性の問題は結局は残る。

企業によっては移転価格を経営レベルで決めるのではなく、プロフィットセンター間で当事者に交渉させるケースもある。京セラのアメーバ組織はその例だ。ただ、このようなやり方は往々にして部門の力関係が反映されがちとなるし、社内交渉というあまり生産的ではない業務に必要以上に時間をとられ、機会費用ばかりが増える可能性もある。

結局、万人が納得する移転価格の手法は存在せず、どこかで妥協しなくてはならないのだが、その加減が非常に難しいのである。

もともとコストセンターたった部門をプロフィットセンターとしたがゆえに全社的には好ましくない行動を誘発することもある。例えばある企業ではかつてコストセンターだったカスタマーサービス部門をプロフィットセンター化した。彼らにも利益に対する感覚を持ってもらおうという意図である。ところがカスタマーサービス部門は経営陣が意図しなかった行動に出た。「売上を上げないと利益が出せない」ということで、顧客に多少強引な営業をかけ、「サポートの押し売り」的な行動に出たのである。利益を求められた以上、当事者には妥当性の高い行動ではあったが、これは顧客の不興を買い、顧客満足度を下げることにつながった。そのことに気がついた経営陣は、改めてカスタマーサービス部門をコストセンターに戻し、顧客満足度や対応時間といった他の大事なKPIを中心に評価することにしたのである。利益に対するこだわりは大切な一方で、戦略に沿わない行動を誘発したり、組織のベクトルかずれたりするような事態はやはり避けるべきだ。

改定4版 グロービスMBAアカウンティング
著・編集:グロービス経営大学院 発行日:2022/9/27 価格:3,080円 発行元:ダイヤモンド社

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