昨年9月発売の『改定4版 グロービスMBAアカウンティング』から「第4章1 コラム:予算策定のアプローチ」を紹介します。
予算、特に売上予算や費用予算、利益予算は企業にとって数字的に最も重要な目標であり、かつPDCAを回すうえでもその基盤となります。ベンチャー企業などではラフな売上目標しかなく、1年間の業績を締めてみたら赤字だったということが少なからずありますが、それが許されるのは小企業までです。ある程度の規模の企業になれば、数タイプの予算をベースに従業員を鼓舞したり、予算実績管理を通じ、必要に応じて適切なアクションをとることが、収益性を上げるうえでも必須です。
難しいのは、高すぎも低すぎもしない、適切な予算をいかに策定するかのアプローチです。トップダウン型なのかボトムアップ型なのか、どのスタッフまで巻き込むのか、どのくらいの時間をかけるのか、前年実績をどの程度考慮に入れるかなど、検討すべきポイントは多々あります。絶対的な正解はないですが、だからこそ慣習に流されるのではなく、実務的にも効果的な方法論を模索することが必要です。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
予算策定のアプローチ
予算の策定のアプローチには、大きくボトムアップ型とトップダウン型がある。実際には多くの企業においてこの両者のエッセンスを含む複合的手法がとられている。
ボトムアップ型とは、現場に近い各チームや部署からの数字を積み上げ、事業部の予算、最終的には会社の予算とする方法である。一方、トップダウン型とは経営サイドで大枠の予算を決め、それを事業部、部署へと落とし込んでいく方法である。これらはいずれもメリットとデメリットがある。
まずボトムアップ型のメリットとして、現場のことをよく知っている人間が起案するため、市場や競合への洞察などの現場感が反映されやすい。また、多くの人々の声を聞くことで参画意識やコミットメントを醸成させやすくなる。
デメリットとしては、「甘い数字」になりがちという点が挙げられる。これは売上予算にも費用予算にも言えることだ。前者については、通常、営業担当者や事業責任者にとって「売上未達」は人事考課上もマイナスとなるため、保守的な(少なめの)数字を出すのは人間心理としても当然なのだ。後者についても、本来削れる費用であっても、「昨年これだけ使ったのだから、今年もこのくらいは必要だ」として予算案に(多めに)盛り込みがちである。本来であれば売上は高く、費用は必要最低限にして利益を最大化することが望ましいのだが、ボトムアップ型では通常これは実現されにくい。
一方のトップダウン型は、まずメリットとして経営の意思が伝わりやすいということがある。期待する売上や利益、投資の意思、さらには重視したい事業などが明確になりやすいということだ。例えばある事業の人員を3倍にし、売上見込みも3倍を目指すような計画が出てきたら、経営サイドがその事業を将来育てようとする意思があることが誰の目にも明らかだ。
デメリットとしては、現場から見るとかなり高い売上や利益の数字になりやすい点がある。それを強引に現場に落とし込もうとすると、「厳しいノルマ」という意識が強くなり、かえって現場のモチベーションを削ぐ可能性がある。1年、2年は良くても、長期的には社員が疲弊してしまい、離職率が高くなるなどということも起きがちだ。
よりまずいのは、不正を誘発する可能性が高まることだ。架空売上の計上などはその最たるものである。
こうしたこともあり、通常はボトムアップ型とトップダウン型が併用され、その間でバランスの良い落としどころが模索されるという方法がとられる。
どちらの数字を先に出すか、あるいはボトムアップの合計とトップダウンの意思の間のどの辺が落としどころになるかは、組織文化や経営者の個性で大きく変わるため、どのやり方が正解ということはない。大事なのは、最終的に戦略に合致し、かつより多くの関係者(従業員や経営陣、株主)が納得する予算とすることで、従業員のモチベーションアップやスキル向上にもつながり、さらには企業価値を高めることにつながる予算とすることだ。
『改定4版 グロービスMBAアカウンティング』
著・編集:グロービス経営大学院 発行日:2022/9/27 価格:3,080円 発行元:ダイヤモンド社