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経営の実態を知るには「財務三表以外」をストーリーで読み解け

投稿日:2023/01/27更新日:2023/03/13

今年9月発売の『改定4版 グロービスMBAアカウンティング』から「第1章2 コラム:統合報告書」を紹介します。

企業活動の成果は基本的には財務三表に集約されます。とはいえ、企業のKPIやKPIにまとめきれない定性的な情報はますます増え続けており、それらを理解しておかないと、その企業の活動が健全なのか否か、あるいは将来に向けて競争力を維持し成長できるのかを読み解くことはできません。たとえば「女性管理職比率」のようなKPIは、企業のダイバーシティを高めることで意思決定の健全化を促すことが知られていますが、その数字だけを単独で見ていても、企業経営が適切なものかどうかを判断することは容易ではありません。

そこで必要になっているのが、統合報告書のような、多くの情報が詰まった資料をストーリー性をもって読み解く力です。統合報告書には、組織の戦略やガバナンス等がどのように短、中、長期の価値創造につながるか、そのヒントを提示しています。統合報告書や企業が任意で作成する資料から、その会社の成長ストーリーを読み解くとともに、そこに矛盾がないかなどをチェックする能力が経営者にも投資家、取引先にも求められる時代となっているのです。 (このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

◇    ◇    ◇

統合報告書

企業の財務諸表に現れない項目(非財務情報)の重要性が高まっていることを紹介してきた。では、投資家は企業が公表する「何の資料」を見ることで、投資判断に有用な情報を入手することができるだろうか。その1つの答えが、財務情報と非財務情報を統合した報告書、「統合報告書」である。

非財務情報の重要性が認識されるようになって以降、企業は「環境報告書」や「知的財産報告書」、「CSR報告書」といったさまざまな報告書を自主的に作成し開示する動きが見られた。投資家側も、2008年のリーマンショックを契機として、より長期的な価値を重視するようになってきた。しかし、企業が財務情報や非財務情報を多く開示する一方で、投資家からすれば意思決定や企業評価の観点でどの資料を見れば良いのか、財務情報と非財務情報にどういうつながりがあって中長期的に企業価値を創り出しているのか、といった点が外部からはわかりにくいという課題も出てきた。

そのような中で、統合報告書は、組織の戦略、ガバナンス、実績及び見通しがどのように短、中、長期の価値創造を導くかについての、投資家等との簡潔なコミュニケーション・ツールとして位置づけられる。国際統合報告協議会(IIRC)では統合報告書の作成や情報等に関するフレームワークを2013年に公表しており、日本でも統合報告書の発行企業は旧東証1部上場企業を中心に増加し、2021年時点では500社を超えたとされる。

ただし、財務情報と非財務情報が1つの報告書に含まれてさえいれば良いわけではない。重要な情報が報告書に含まれていることに加え、企業の目的やその達成に向けた取り組みといった価値創造のストーリーと各情報のつながりが重要であり、統合報告書はそれを強く意識して作成される。例えば、統合報告フレームワークに示されている通称オクトパスモデルを基礎として、その要素と流れを具体的に説明する形式がとられる。すなわち、外部環境や存在意義・使命・ビジョン、ガバナンス、リスクと機会、戦略と資源配分、実績、見通しが、ビジネスモデルの下で資本を事業活動にインプットして、それをアウトプットに加工し、アウトカムに導く、というプロセスを示しつつ、そこにカネとそれ以外の資本を織り込んでゆくのである。

無形資産もESGも、それ自身が大切というよりは、それらが企業価値に与える影響が顕在化してきたから大切なのである。このつながりを企業が示し、投資家等が理解できるような仕組みがいま求められている。この目的を満たすべく、例えばエーザイのように、女性管理職比率や育児時短勤務制度利用者割合などのESGに関連するKPIが将来の損益やPBR (株価純資産倍率)に及ぼす影響を統計的に分析したケースもある。今後も統合報告書を通じて企業の価値創造プロセスをステークホルダー間で共有すべく、開示項目には企業のオリジナリティもさらに見られるであろうし、掲載情報の確からしさの第三者保証の必要性についても議論されてゆくであろう。また、この環境下では、企業側も企業を外から見る側も、アカウンティング知識による財務諸表の理解と、財務数値の前提となる事業構造を紐づける力がますます求められてくるであろう。

改定4版 グロービスMBAアカウンティング
著・編集:グロービス経営大学院 発行日:2022/9/27 価格:3,080円 発行元:ダイヤモンド社

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