昨年9月発売の『改定4版 グロービスMBAアカウンティング』から「第2章 2 経営の実態を見抜く キャッシュ・コンバージョン・サイクル」を紹介します。
経営指標分析の代表的なものに、収益性の分析、効率性の分析、安全性の分析などがあります。これらをバランスよく行うことで、企業の実態をあぶりだすことが大切です。
さて、効率性の分析の1つにキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)があります。この数字が大きいほど企業は運転資本(ワーキングキャピタル)としての現金(キャッシュ)を手当てすることが必要となり、銀行からの借り入れなどに頼る必要性が増します。また、CCCが対前年比で長くなることは、通常効率性が下がったことを示し、より多額の運転資本の手当てが必要となります。フリーキャッシュフローなども減ってしまい、企業価値も下がります。それゆえ、CCCをできるだけ低く抑えることが大切となるのです。
ところがビジネスモデルによっては、CCCが低いどころかマイナスになる企業もあります。これは資金繰りを極めて楽にします。端的に言えば、在庫を極小化するとともに、仕入れのキャッシュアウトよりも販売によるキャッシュインを先にすることでこれが実現します。なかなか難しいことではありますが、それを実現している企業にメルカリやアマゾンなどがあります。こうした企業のビジネスモデルを参考にし、自社に取り入れられないか検討することも、昨今のビジネスリーダーには必須の素養なのです。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
キャッシュ・コンバージョン・サイクル
それではメルカリとブックオフの効率性を比較してみよう。ここでは、CCC(キャッシュ・コンパージョン・サイクル)というフレームワークを紹介したい。CCCとは、製造や販売に必要な材料や商品を仕入れるために資金を投じてから、製品や商品を販売して売上を回収するまでの期間を示したもので、運転資本を期間で表したものである。CCCは一般的には、「売上債権回転期間+棚卸資産回転期間-仕入債務回転期間」で計算される。日数が短ければ短いほど、資金効率が高く必要となる運転資本の金額が小さくなる。
ますブックオフのCCCを見てみよう。ブックオフは個人顧客が商品を現金で購入する場合が多いため、売上債権回転期間は比較的短いが、個人から中古品を現金で買取るため仕入債務回転期間も同様に比較的短い。持ち込まれる中古品は必ずしも顧客のニーズと合致したものばかりではないため、棚卸資産回転期間はある程度長くなる傾向にある。このため、一定の運転資本が必要なビジネスモデルであり、CCCがプラスになることがわかる。
一方で、メルカリのCCCを考えてみよう。メルカリの貸借対照表にはCCCの構成要素である棚卸資産と仕入債務がないため、一般的な意味でCCCは非常に短期間となる。
実はメルカリの場合、CCCに影響を与えるのは単に上記だけではない。ユーザーがメルカリのアプリでクレジットカードを利用して商品を購入したとする【①】。商品の取引代金の10%が手数料としてメルカリの売上、残りの90%が出品者の売上になるので、クレジットカード会社からメルカリに商品代金が振り込まれるまでは、購入代金の10%がメルカリの売上債権、90%が未収入金となる【②】。商品代金がカード会社からメルカリに振り込まれると、未収入金は預り金に振り替えられ、メルカリから出品者への支払いが行われるまで預り金として計上される。その後、出品者からメルカリヘ振込申請がなされると、この預り金が出品者に支払われる【③】。つまり、商品の代金回収(キャッシュイン)が先、出品者への支払い(キャッシュアウト)が後という関係になるため、CCCがマイナスとなる。ブックオフなどの従来のビジネスモデルとは異なり、仕入代金の支払いから売上代金の回収までの運転資本が不要であるだけでなく、売れれば売れるほど手元に現金が残るビジネスモデルであることがわかる。
『改定4版 グロービスMBAアカウンティング』
著・編集:グロービス経営大学院 発行日:2022/9/27 価格:3,080円 発行元:ダイヤモンド社