皆さん、日々の仕事や生活で自動翻訳を使っていますか?最近ではDeepLを始めとする自動翻訳ツールの精度向上が目覚ましく、まさに驚くべき進化を遂げています。そうした中で本書は、グローバル・コミュニケーションを目的とするなら、英語等の外国語を学ぶのではなく、自動翻訳ありきで日本語を今一度学習し直すべきだと提言する書籍です。
私は過去に知見録で英語学習に関する記事を執筆しましたが、もちろん英語を学ぶ意味は変わらずあります。例えば、英語を始め外国語を学ぶことによって初めて、その言語の背景にある文化であったり思考・コミュニケーションの仕方を理解することができるといった点があるでしょう。しかし、「読む」「聞く」「話す」「書く」のいわゆる4技能の内、「読む」と「書く」という書き言葉に関しては、AI翻訳などの技術の発展も相まって、自動翻訳がその大部分をカバーし切れる時代がすぐそこに迫っています(「聞く」と「話す」という話し言葉も自動通訳の発展次第では遅かれ早かれ同じ状況とはなりそうですが)。
本文中には、自動翻訳にかけることを前提として、より精度の高い翻訳結果を得るための文章を書く際の基本ルールが解説されています。例えばハイコンテクスト(事前の共有情報が多い)の日本語をローコンテクスト(事前の共有情報が少ない)の英語に置き換えるにあたり「必ず主語を書く」「能動態で書く」等が挙げられていますが、これは英語をはじめとした翻訳に留まるものではなく、ビジネス実務における正しく伝わりやすい日本語にも同様に求められる訳です。
「伝わりやすさが求められる英語の特徴を念頭に和文を書くことで、翻訳の精度が高まります。それだけではなく、その過程で、日本語で伝える力も向上します。」との著者からの冒頭のメッセージが物語っていますが、自動翻訳向けの文章を書く中で、日本語能力の改善・向上が図れるのは文字通り一挙両得と言えるのではないでしょうか?
加えて、本書では、文章構成に関しても触れられています。ここでも例を挙げるとすれば、いわゆる日本的な「起承転結」型をNGとした上で、「PREP法(Point:ポイント・Reason:理由・Example:例・Point:ポイント)」「結論・根拠・結論」等のグローバルに通用する明確な論理の型をしっかりと身に着けることを推奨しています。これまた日本語でのコミュニケーションについても、全く同じことが言えるでしょう。
その意味では、本書は一見英語学習本のようでありながら、その本質は日本語の学習本であり、まさしく『グローバル×AI翻訳時代の新・日本語練習帳』とのタイトルに嘘偽りはありません。
この機会にぜひこれからの時代に必要な日本語をもう一度見直してみませんか?
『グローバル×AI翻訳時代の新・日本語練習帳』
著者:井上多惠子 発行日:2022/9/30 価格:2,200円 発行元:BOW&PARTNERS 発売元:中央経済グループパブリッシング