今年7月発売の『ビジネスで使える数学の基本が1冊でざっくりわかる本』から「Chaper8微分」の一部を紹介します。
ある時点で追加的にかかる費用、すなわち限界費用は、全体の平均コストとは別物であるということを理解しないと意思決定を誤ることがあります。たとえばある事業で、それまでの顧客当たりの平均単価が10000円、平均費用が8000円だったとします。さて、ここに新しい顧客が現れて「7000円だったら利用するけど、10000円は払いたくない」といったらあなたはこの顧客を受け入れるでしょうか? 「赤字になるから受け入れない」と考えた人は誤りです。ここで比較すべきは平均費用ではなく、追加でかかる限界費用だからです。平均費用の中には、顧客が1人も来なくても発生する固定的な費用も含まれています。それらを含めて平均8000円ということです。もし追加1人当たりのサービス提供費用が5000円なら、7000円の支払額でも受け入れるという判断はあり得るのです(もちろん、他の顧客との公平感や以降の悪影響も考慮する必要はあります)。錯覚しがちな部分なので正しく理解しましょう。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、東洋経済新報社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
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限界費用の考え方
「限界費用ゼロ社会」という言葉を聞いたことのある人もいるかもしれません。
これは、IoT(モノのインターネット)の実現によってモノやサービスを生み出す追加コスト(=限界費用)がゼロあるいは限りなくゼロに近づくことで、新たに出現する社会のことです。
2015年にジェレミー・リフキンが、著書『限界費用ゼロ社会<モノのインターネット>と共有型経済の台頭』で提唱した新しいパラダイムです。
ここで限界費用とは、「ある時点において、xが追加で1増えた時、yがどのくらい増えるか」というもので、まさに微分の考え方と同じです。
「限界費用ゼロ社会」は、どんどんモノやサービスが生産されるようになれば、その追加コストは限りなくゼロに近づくというものです。費用の総額がゼロになるわけではないという点に注意しましょう。
「限界費用ゼロ社会」が実際に実現するかは何ともいえませんが、限界費用がどんどんゼロに近づくという事象は、身近でも観察されます。
たとえばプロバスケットボールの試合開催を考えてみましょう。ここでは飲食やグッズ販売は除いて考えてみます。
試合をする以上、固定的にかかる費用がまず生じます。選手の年俸やアリーナの賃借料などです。その日の試合に仮に1人しか観客が来なかったとしても、これらは発生します。
さて、観客が1000人、2000人と増えるとどうなるでしょうか。アルバイトなどを増やす必要がありそうですが(現実には事前に見積もります)、追加的に増やす必要のあるコストはきわめて小さくなります。
そしてアリーナのキャパシティが5000人の場合、観客数4500人目から4501人目までに必要な追加コストはほとんどゼロになるでしょう。
英語では追加的なコストのことをmarginalなコストといいますが、それがほとんどゼロになるのです。同様のことはセミナー開催などでもいえます。
ただし、コストは全体としては生じますので、それをカバーするだけの入場料は必要になります。
仮にその試合のトータルの費用がcで入場者数が4501人の場合、顧客1人当たりの費用はc÷4501となります。これは平均のコストであり、averageの費用です。averageの費用とmarginalな費用の違いに留意しましょう。
『ビジネスで使える数学の基本が1冊でざっくりわかる本』
著者:グロービス 執筆:嶋田毅 発行日:2022/7/29 価格:1,760円 発行元:東洋経済新報社