今年7月発売の『ビジネスで使える数学の基本が1冊でざっくりわかる本』から「Chaper4平均」の一部を紹介します。
オンライン記事などで人気の企画がさまざまなランキングです。「就職したい企業ランキング」「住みやすい県ランキング」などは定番のランキングです。こうしたランキングは様々な要素の点数(「住みやすい県ランキング」であれば「治安」や「人口当たりの幼稚園数」など)を作成者が重みづけをして加重平均して作成します。
ここで重要なポイントは、重みづけが恣意的なもの、つまり万人が共通認識として持つものではないという点です。たとえば筆者は北陸出身です。北陸の県は「住みやすい県ランキング」で上位に来ることが多いのですが、筆者がUターンしたいかと言えばそれは微妙です。現在住んでいる東京に比べると刺激が少ないですし、降雪や公共交通網の弱さなども気になるからです。人によって何を重視するかは千差万別です。ランキング作成者の重みづけはあくまで一つの考え方に過ぎないという意識を持っておくことが必要です。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、東洋経済新報社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
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加重平均の落とし穴
質問 図4-4のケースではCさんとDさんとEさんの誰を選ぶべきでしょうか。
若手の登竜門的な漫画賞の大賞受賞者を選ぶシーンを想定します。この賞では、基礎力15%、画の魅力度25%、ストーリーの魅力度30%、成長余地20%、プラスα10%の重みづけとなっています。
この重みづけを妥当とするならば、図4-5の合計点数により、Dさんが大賞受賞者となります。
画やストーリーの魅力度では高得点のEさんは、成長余地とプラスαの点を稼げずに、惜しくも大賞を逃してしまいました。
実際にこうしたことはよくある話です。ただ、Eさんとしては、「画もストーリーも、自分の方がいいのに何で……」という思いは残るでしょう。これが恣意性の入る加重平均の怖さです。
仮に「プラスα」という曖昧なものが評価項目になく、また成長余地の重みが10%のみで、画の魅力度が35%、ストーリーの魅力度が40%だとすると、評価結果は図4-6のように変わります。
この基準であれば大賞受賞者はEさんで、今度はDさんが最下位になります。
仮に採点結果が同じでも、項目の重みづけによってランキングの結果はまったく異なる結果になりうるというのはビジネスパーソンとしても意識しておきたいポイントです。
ランキングは評価項目の重みづけ次第でまったく変わると書きましたが、その典型例が、Times Higher Educationが発表する世界大学ランキングです。このランキングでは教育30%、研究30%、被引用論文30%、国際性7.5%、産業界からの収入2.5%となっています。
2022年(発表は2021年9月)の結果は、日本の最高が東京大学の35位、ついで京都大学が61位でした。日本の上位は俗に「旧帝」と呼ばれる国立大学が占めています。
では、このランキングで日本の私立大学トップはどこだったと思われますか。正解は、国内の大学では7位に食い込んだ産業医科大学です。その次が関西医科大学で、次にようやく慶應義塾大学が登場します。
おそらく日本のビジネス界の人事部の認識とは大きく異なる結果といえるでしょう。これは、研究や被引用論文の重みづけの高さによります。つまり、研究力の高い大学や被引用論文数の多い大学(特に医学部のある大学や理工系の比重の高い大学)が上位にきて、いわゆる「文系の学士」のレベルはほとんど考慮されないからです。
事実、医学部を持たない早稲田大学のランキングは近畿大学よりも下なのです。
『ビジネスで使える数学の基本が1冊でざっくりわかる本』
著者:グロービス 執筆:嶋田毅 発行日:2022/7/29 価格:1,760円 発行元:東洋経済新報社