今年3月発売の『起業の失敗大全』から3章「フライングの罠」の一部を紹介します。
事業機会が本当に存在するのか、それはどの程度の規模感なのかを検討する上で、潜在顧客に対するインタビューは非常に有効です。多くの成功した起業家は実際にこのインタビューを通じて、事業機会を特定したり微調整したりしています(中には顧客インタビューで好感触を得られなくても自らの信念で突き進み、市場を自ら開拓することに成功した起業家もいますが、多くはありません)。この潜在顧客インタビューにはいくつかの「べからず」集があります。起業家は自分のアイデアに取りつかれてしまうがゆえに、これらの罠に落ちがちですが、一歩引いて冷静に自らのアイデアを精査する必要があるのです。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
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顧客インタビュー
顧客インタビューは、問題定義フェーズのバックボーンとなるものです。リーン・スタートアップの第一人者であるステイーブ・ブランクは、起業家たちに、まず顧客発見インタビューを行うようにと説いています。「発見」は正しい考え方です。起業家は、満たされていない顧客のニーズを探すべきです。もし起業家が十分な数の顧客インタビューを行わなかったり、間違った相手に話をしたり、会話をうまく管理できなかったりすると、解決する価値のある問題を発見できなくなります。顧客インタビューに関するよくある失敗は、以下のとおりです。
自分が顧客であるがゆえに、顧客のニーズを理解していると思い込んでしまう
自分のニーズを満たすソリューションを作ることは、必ずしも間違いではありません。ただし、十分な数の潜在顧客と話をして、かなりの数の顧客が同じニーズを持っていると確信できる場合に限ります。
安易なサンプリング
起業家が友人や家族、同僚にインタビューするのは、簡単に連絡が取れ、協力してくれるからです。ただ残念ながら、私たちは自分と似たような人たちに囲まれがちなので、これは自分自身にインタビューしているようなものです。また、友人や家族は、起業家に対して、本当に思っていることではなく、彼/彼女が聞きたいと思っていることを話す傾向があります。
関係者全員にインタビューしていない
購入の意思決定に影響を与えるすべての関係者にインタビューすることも大事です。例えば、BtoBの取引の場合、システムを選択したり、購入を承認したりするのは、通常、エンドユーザーではありません。同様に家庭では、親が子どものために買うものを決めることがあります。このような場合には、エンドユーザーと購買意思決定者の両方から、フィードバックを得る必要があります。
アーリーアダプターのみを対象としている
アーリーアダプターのニーズに応えようとする本能は、理解できます。なぜなら、彼らはプロダクトを広めてくれる人たちだからです。しかし、新しいソリューションのアーリーアダプターは、後から購入する「メインストリーム」の人々とは異なる、より強いニーズを持っていることが多いものです。例えば、ドロップボックスのアーリーアダプターは、超マニアックな人々でした。一方、サービス開始から数年後の典型的な新規ユーザーは、PCの電源ボタンを探すのに苦労するような人々かもしれません。ドロップボックスは賢明にも、このようなユーザーでも問題なく操作できるように、プロダクトを設計しました。
アーリーアダプターとメインストリーム・ユーザーのニーズを同時に満たすのは、難しいことです。このジレンマについては次の章で説明しますが、ここではそれぞれのニーズの違いを理解することが重要であることを強調しておきます。つまり、両方を調査する必要があるということです。
誘導尋問
起業家は、質問者が望んでいることを回答者に言わせるような質問の仕方をしないように、注意しなければなりません。「古くなった『マッチ』(マッチングアプリ)のプロフィールを整理するには、時間がかかりすぎると思いませんか?」ではなく、「『マッチ』のプロフィールを検索した経験は、どのようなものでしたか?」のような質問をしましょう。
予測を求める
誰かに将来何をするかを尋ねると、希望的観測が返ってくることがよくあります。その行動が望ましいものであれば、なおさらです。例えば、「来月はどのくらいの頻度でジムに行きますか」と聞くと、「1日おき」という答えが返ってくるかもしれません。そうではなく、過去の行動について聞きましょう。例えば「先月はどのくらいの頻度でジムに行きましたか?」と聞くと、「うーん、忙しくて3週間は行っていません」という答えが返ってくるかもしれません。
自分のソリューションを売り込む
起業家は、自分のアイデアに興奮するあまり、ついピッチモードに入って人の反応を見てしまいがちです。これは有益な方法ではありません。あなたの気持ちを傷つけたくないからなのか、あなたの強さに恐れを抱いているからなのか、多くのインタビュー対象者は、あなたのコンセプトが好きでなくても、好きだと言うでしょう。この時点では、起業家は満たされていないニーズを探るだけで十分です。
『起業の失敗大全 スタートアップの成否を決める6つのパターン』
著者:トム・アイゼンマン 訳:グロービス 発行日:2022/3/30 価格:2,970円 発行元:ダイヤモンド社