最初に読みたかった本
初めて管理職になり、部下を持った時、「この本が手元にあれば回り道をしなかったのに!」というのが本書の率直な感想だ。
本書には、中間管理職が知っておくべき理論が簡潔にまとめられている。中間管理職の難しさは部下、同僚、上司と自分の360度に注意を払い、絶えずコミュニケーションをして、成果を出すのと同時に部下を育てるのとの両方が求められることである。
初めて部下を持った時、私もご多分に漏れず、自分のやり方を部下に押し付け、「なぜできない?」と問い詰めていた。相手の立場に立つことの重要性はわかっていても成果を求める余り、部下のことを見ていなかった。上司や同僚に対しても根回しする必要性もわからずに、とにかく成果を出せば周囲は納得するだろうくらいにしか考えていなかった。
当然成果は出なかった。空回りしている自分を振り返り、書店に立ち寄るとリーダーシップやマネジメントの本が山積みで、どれから読んでいいかわからず手当たり次第に読んでいった。その後、様々な失敗を繰り返し、管理職として必要な経験をつみ、今に至る。
本書を最初に手に取っていれば、空回りすることなく、管理職として最短で成長できたのではないかと悔やまれる。
良いマネジャーの要件変化に理論と実践で対応する
最近は人工知能やDXといった言葉が飛び交い、マネジャーを取り巻く環境は大きく変化している。部下をじっくり育てる時間はなく、短期的な成果も求められる。情報を持っているだけで価値を生んでいた時代ははるか昔に終わった。業務を管理するだけなら管理職は不要ではないか。そういう声も聞く。しかし、グーグルのProject Oxygen*で明らかなように、いつの時代でも良いマネジャーは必要である。
*Project Oxygen :管理職を全廃し業績が下がったグーグルで始まった、業績を上げるマネジャーの特徴を調べるプロジェクトのこと。ちなみに、調査で明らかになった8つの特徴には、良いコーチである、権限移譲しマイクロマネジメントはしない、等がある。
よいマネジャーの要件が変わったのだ。部下もミレニアル世代や年長者と年代は様々で、職種も正社員、派遣社員、業務委託社員と様々である。多様な人材をマネジメントしていくには、こうすればいいというHow toは廃れやすく、役に立たない。
本書の特徴は、理論と実践がバランスよく配置されていることである。本書は、人のマネジメントと業務のマネジメントに分けて、簡潔に中間管理職が知っておくべき理論が網羅されている。
リーダーシップとマネジメントの違いとは何か、ミドルマネジメントの役割とは何か、モチベーション理論、チームワークやイノベーションなど、コッターやミンツバーグ、ハメルといった著名な研究者の理論が事例と共に説明されている。
一方で、プレイヤー意識から抜け出すにはどうしたらいいか、部下との1on1で何を話したらいいのか、コーチングとティーチングの違いは何か、会議の運営をどうすればいいか、部署同士の対立をどう収めるか、など中間管理職が実務で直面するテーマがちりばめられており、読者は自分の事例に引き寄せて理論と実践の両面から理解することができる。
コロナ禍でリモートワークが定着し、社員の働き方も多様になってきた。本書は新任管理職に最適だが、従来のマネジメントで限界を感じている中間管理職や自らのマネジメント経験に偏りを感じているベテラン管理職にとっても、気づきを得られる1冊である。中間管理職なんかやりたくないと思っているプレイヤーも本書を読めば、管理職の楽しさを感じられ、挑戦してみようという気になるのではないだろうか。
著者:グロービス経営大学院、嶋田毅 発行日:2021/12/2 価格:3,080円 発行元:ダイヤモンド社