起業するなら都市より地方かー『六方よし経営』

新しい三方「作り手よし、地球よし、未来よし」

「三方よしの経営」という言葉を聞かれた方は多いはずだ。これは江戸時代の近江商人の「売り手よし、買い手よし、世間よし」の経営のポリシーを後世の人がネーミングしたものである。本書は、この三方よしに加え、「作り手よし、地球よし、未来よし」の3つを追加し、新しい企業経営のあり方を示した1冊だ。

1章で総論として「六方よし経営」の意義やその必然性、さらには「六方よし経営」に至るまでの典型的なプロセスを解説したのちに、2章から4章までの3章で、いくつかのカテゴリーに分けて合計14社のケーススタディ(事例)を紹介している。具体的には以下のような形となっている

2章:既存事業と地域を活性化する「六方よし経営」:5事例
3章:社会課題を解決する「六方よし経営」:4事例
4章:地域資源の価値を高める「六方よし経営」:5事例

それぞれのテーマの事例を通じて、そこに横たわる共通項を帰納的に実感できる体裁となっている。

本書で対象としているのは基本的に地方の中小企業、ベンチャー企業である(14社のうち3社は東京の企業であるが、日本の伝統を広める企業や、林業という東京では意外なビジネスを営む企業などを紹介している)。

ベンチャーというと都市部に集中しており、急成長によってIPOを果たすことをまずは目標とするというイメージが強い。ただ確かにIPOはベンチャー起業家にとっては1つの目標だが、それだけがベンチャーの目標のすべてというわけではない。地域に根差しつつも、Eコマース等を通じて着実に成長し、様々なステークホルダーに価値提供するというのも、目的、目標としては十分に成り立つのだ。本書の中には「起業するなら、都会よりも地方がいいと思います。地域の人たちは何かと気にかけてくれ、お米や野菜をおすそ分けしてくれたりして、とてもありがたいです」という起業家のコメントも紹介されている。

「価値の発見」で地方を活性化する

さて、書籍タイトルや先述の章タイトルからもわかる通り、本書は近年のSDGs、ESGやパーパス経営、さらには地域活性化といった経営課題、社会課題に答えるヒントを提供する1冊でもある。特に近年、地方の県庁所在地でも「シャッター街」が増えるなど、地方の衰退は確実に進んでいる。東京だけが栄えても日本という国は良くならない、ビジネスを通じた地方の活性化こそが日本の未来にとっては必須という著者の思いが感じられる。

第1章の中で著者が提唱している典型的な「六方よし経営」のプロセスは以下のようになる。

「越境学習」 → 「価値の発見」 → 「フェアトレード」および「地産地承」

詳細は本書に譲るが、筆者が特に面白いと思ったのは最初の2つだ。1つ目の「越境学習」とは、「コンフォートゾーン」を超えて新しい経験をすることにより、何かしらの知見や気づきを得たりインスパイアされることだ。やはり人間は何かの「目が覚めるような」刺激がないと、なかなか新しい発見をしたり新しい一歩を踏み出しにくいのである。本書では海外に行った例や、地元のMBAコースで学んだ例などが紹介されている。

2つ目の「価値の発見」とは、「今ある資源や足元の価値に気づくこと」である。本書の多くの事例に紹介されている、地方ならではのユニークな商品の価値などがその例だ。事例12で紹介されている「久留米餅の現代風もんぺ」などはその典型だろう。「もんぺ」なんて今時売れるはずがないというのが常識的な発想だが、何かしらの新しい価値を加えることで、潜在的な顧客に訴求することは十分に可能なのである。日本には長年培われた文化がいたるところにある。実は日本は眠っている価値の宝庫であるという事実は、地域おこしをされたい人にとっても大きなヒントを提供するとともに、励みにもなるだろう。

さて、本書で紹介されている企業は中小企業であるが、「六方よし経営」のエッセンスはそれだけにとどまるものではない。中小企業にとっての課題は、概ね大企業にも通じるものだからだ。持続可能性や幅広いステークホルダーとの関係構築が課題となる中、大企業の方にとっても大きなヒントとなる1冊である。

六方よし経営 日本を元気にする新しいビジネスのかたちよそ者経営

著者:藻谷 ゆかり 発行日:2021/07/15 価格:1,540円 出版社:日経BP

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