今年6月発売の『グロービス流 あの人頭がいいと思われる 考え方のコツ33』から「23.視点を変えて考える�A」の一部を紹介します。
ものの見方を抜本的に変えることはなかなかできるものではありません。たとえばかつて天文学では天動説が長く信じられていました。人間の自然な直感にも沿う考え方だったからです。しかしその後、天動説では説明できない天体の動きが観察され、ついにコペルニクスは地動説という考え方に至りました。実はこの間にも天動説をベースとしたさまざまな妥協案が生まれては消えていました。それほど人間はいったん固定化したものの見方を変えることはできないのです。だからこそ「コペルニクス的転換」という言葉でその難しさを示しているともいえます。
別の例としては、「企業組織とは人の集まりである」という見方も長く続いたものの考え方です。しかし、1990年前後に「企業組織とはプロセスの集まりである」「企業組織とは機能(ファンクション)の集まりである」という見方が広まったことで、ビジネスプロセスエンジニアリング(BPR)や活動基準原価計算(ABC)という経営手法が登場することになりました。自分が当たり前に見ている世界を全然別の角度で見ることから生まれる価値は非常に大きいのです。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
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視点、観点を変えることで別の世界が見える
視点を変えることで、「世の中の見え方が変わる」ということがあります。たとえば、生物学者のリチャード・ドーキンスは「利己的な遺伝子」(selfish gene)という考え方を紹介することで、生物学の世界はもちろん、一般の知識人にも大きな影響を与えました。
利己的な遺伝子とは、「自然選択の実質的な単位は遺伝子であり、生物は遺伝子によって利用される『乗り物』にすぎない」という説です。あらゆる生物は、特定の遺伝子が自己増殖するための装置であり、それに都合がいいように行動するだけだというのです。たとえば、人間は自分の子どもが危機に瀕すると助けようとしますが、それも自分の遺伝子を残すための行動にすぎないというのです。この考え方には多くの非難も寄せられましたが(詳細は割愛します)、進化生物学に大きな一石を投じたのです。
別の例では、ジョン・メイナード・ケインズの需要に視点を移した有効需要の法則は、それまでの経済学の見方を大きく変えることになりました。需要があれば供給を作ることができるというのは今では広く受け入れられた考え方ですが、当時は非常に斬新で、懐疑的な意見も多かったのです。
「うまい言い換え」で物事の本質を探る
モノの見方を変える比較的シンプルな方法は、表現の仕方を変えることです。その中でもシンプルなのは、交渉術などで説明されるフレーミング(枠づけ)です。フレーミングでは、「額と率」「時間軸」「プラス方向かマイナス方向か」などさまざまな言い換えが提唱されていますが、それによって実際に人間のモノの見方は大きく変わることが知られています。たとえば、「まだ半分残っている」と「もう半分終わった」では、人の受け取り方は大きく異なるのです。
あるものを別の定義で表せないか、強引に考えてみることも有効です。以下のようなイメージです。
「寿司屋とは、寿司で客寄せをしてアルコールで儲ける飲食業である」
「アメリカにおける有名私立大学とは、優秀な学生と金持ちの子どもをマッチングさせる場であり、金持ちとなった卒業生からの寄付で運営する教育研究機関である」
「日本の有名私立大学とは、活躍している先輩や、将来活躍する仲間とのネットワークを作る場である」
「正義の反対は悪ではなく、もう一つの正義である」
「子育てとは親育てである」
「(2020年の)GOTOキャンペーンは日本中の資産持ちのシニアから地方の観光業への所得再分配政策である」
「優秀な部下とは、いつか自分の上司やビジネスパートナーになるかもしれない、仲良くしておくべき人材である」
「シニア民主主義とは、これから生まれてくる子どもに対する公的な虐待である」
うまく定義を考えることができれば、物事の本質にも近づけますし、人々を「ハッ」とさせることもできるのです。古典ですが、アンブローズ・ビアスの『悪魔の辞典』などは参考になります。
『グロービス流 「あの人、頭がいい! 」と思われる「考え方」のコツ33』
著:グロービス 発行日:2021年6月16日 価格:1,650円 発行元:ダイヤモンド社