交渉の関係者が増えても目指すべきゴールはWin-Win 

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『グロービスMBAで教えている 交渉術の基本』から「チームによる交渉と複層的交渉」を紹介します。

交渉においては、交渉する当事者に意思決定権がない複層的交渉に取り組まなくてはならないシーンも多々あります。場合によっては、交渉相手との交渉と、社内の最終意思決定者との交渉(あるいは説得)を同時に行わなくてはならないという場面も生じるかもしれません。あるいは目の前の交渉者に「最終意思決定権のあるあなたの上司と直接交渉したい」と要望を出すことが必要なシーンもあるでしょう。いずれにせよポイントは、単純な交渉以上に、交渉の構造を冷静に客観視することです。多くの関係者がWin-Winとなる妥結点を交渉のあらゆる場面でしっかり考え抜き、関係者をそのゴールに向けて動かすよう説得しなくてはならないのです。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

◇ ◇ ◇

チームによる交渉と複層的交渉

ある相手との一対一の交渉に、複数人からなるチームで取り組むケースについても触れておきます。

交渉の構造は、基本的に一対一の交渉と変わるものではありませんが、交渉を進めていく際にチーム内で守るべき約束事がいくつかあります。

・交渉構造の理解をチーム内で統一する
本書で触れたBATNA、留保価値、参照値、目標値などについて、どう認識するべきかを統一し、共有しておく必要があります。誰かが不用意に発言して相手に言質をとられてしまうのを避けるためです。言うまでもないことのようにも思えますが、BATNAや目標値などは交渉の途中で変化することがしばしばあります。その変化にチームリーダーは気付いても残りのメンバーは気付かなかった、といった失敗は意外によくあるのです。

・情報管理を明確にする
交渉では情報の扱いが非常に重要です。相手のBATNAや参照値に関する情報をいかに入手するか、逆に自らのそれをどの程度相手に開示するかには、細心の注意が必要となります。また、アンカリングやフレーミングを形成するため、相手を説得する材料は「どういう順番でどう見せるか」によって効果が大きく違ってきます。入手した情報をチームの誰まで共有するか、こちら側の情報の開示/非開示を誰が決め、運用するかについては、明確なルールを設けてメンバーが行動しやすいようにしておくべきです。

・役割分担をしておく
交渉は短い時間にダイナミックに局面が動くことがしばしばあります。その都度、チームで合議をして方針を共有しなおせればよいですが、そうもいかないケースも多いでしょう。そこで、交渉の席に臨む際には何らかの役割分担をしておきます。最終的に決断を下し指揮をとるのは誰かを特定するのは言うまでもなく、書記役やプレゼン役も1名ないし数名に集中させた方がよいでしょう。これは、他のメンバーを相手との対話や相手の観察に集中させるためでもあります。

また、交渉当事者が論点に対する直接の意思決定権を持っておらず、別の誰かの決定を待たなくてはならないというケースも、ビジネスではしばしばあります。組織対組織としてみれば一対一の交渉であっても、交渉の現場に出てくる人物には決定権がなく、常に「自組織に持ち帰って決める」というワンクッションが間に挟まるという構造を、「複層的交渉」と呼びます(当事者に決定権がある構造は「単層的交渉」と呼びます)。

この場合、組織にとっての利害や規範とは別に、交渉者および意思決定権者それぞれの個人にとっての利害・感情・規範を探る必要がある点に注意が必要です。たとえば、組織としても、意思決定権者にとっても満足すべき提案を投げているのに、交渉当事者だけがなぜかYesと言ってくれないケースなどです。仮に、そのまま妥結してしまうとこちらの言いなりに押し切られたかのように相手の社内で見えてしまうため、意思決定権者からの評価が悪化してしまうのを恐れて動かない、といった要因があるのだとすれば、彼/彼女の顔が立つような何らかの追加譲歩、あるいは意思決定権者とのコミュニケーションなどが必要となるでしょう。

一方、自分が複層的交渉の「意思決定権なき交渉当事者」となることもあるでしょう。たとえば、交渉相手に強く主張する際に「私はともかく社内が納得しないのですよ」と言うのは、心理的負い目を軽減したり、相手のペースをいったん断ち切ったりするのに効果があります。逆に自分側の意思決定権者の説得が難航している場合は、交渉相手の主張の力を借りることもできます。

組織で働くビジネスパーソンにとって、何らかの新しい仕組みを作るときなどは、特にこの交渉スキルが重要となります。外部の組織との協力関係を築きつつ、自分の属する組織の承認を獲得していく必要があるからです。そのためには、繰り返しになりますが、複雑な利害関係者の構造を把握し、キーパーソン、ライトパーソンを探り当てるスキルと、関係者が一致できるポジティブなビジョンを描き、協力を取り付ける力が重要です。

(本項担当執筆者:書籍・GLOBIS知見録編集部 研究員 大島一樹)

 

『グロービスMBAで教えている 交渉術の基本』
グロービス経営大学院  (著)
1600円(税込1728円)

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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