私が登壇する20代、30代のビジネスパーソン向けのキャリアセミナーでは、まず5年後、10年後にどんな環境変化が起きそうか、参加者の皆さんに想像してもらう。すると、「人工知能(AI)」「IoT(Internet of Things)」「ロボット」「クラウド」「ソーシャル」といった、テクノロジーに関連するキーワードが必ず挙がる。しかし、そこからさらに「自分のキャリアにどんな影響がありそうか」「変化に対してこれから何をしていくか」と問いかけると、途端にホワイトボードの前でペンが止まる――。
未来は不確実だが、多くの人は「テクノロジーの進化は止まらない」と確信している。それにも関わらず自分に引き寄せることは難しい。ましてや具体的な行動に落とし込むのはなおさらだ。だからといって、壁を前にして立ち止まることは解決にならない。今回紹介する『2020年 人工知能時代 僕たちの幸せな働き方』は、その壁を乗り越える知恵と心構えを与えてくれる。
読み取ったメッセージはこうだ。知って使って地に足つけて考え続けろ――。著者である藤野氏は「働き方」の専門家でありながら、テクノロジーの最先端が集まるシリコンバレーに自ら飛び込み、テクノロジーを使い倒して進化の時間軸を肌感覚でつかんだ。そして、のべ1万人と「人工知能時代の幸せな働き方」について対話をした。「AIは仕事を奪う」という一般論で思考を止めず、どのテクノロジーがどんなふうに仕事を変えていくか、自分の言葉で語れるまで、知って使って考え続けたのだ。
早速私も、本書で紹介されているAIチャットボット(テキストや音声を通じて、会話を自動的に行うプログラム)と雑談をした。人との会話のようにスムーズではなく、論点のずれた回答も多いが、当たらずとも遠からずとも捉えられた。会話を重ねるうちに、とんちんかんな回答がユーモアにも捉えられ、人間らしさを感じる瞬間もあった。小さな体験の一例だが、こんなことがテクノロジーとの距離を縮め、対立から協働へと意識を変えてくれるのかもしれない。
著者が「人工知能時代」と表現する激動の時代、キャリアに答えはない。キャリアを考えることは、仮説を立てることだと私は考える。しかし、仮説そのものに価値はない。現実に飛び込んで検証し、次なる仮説へと進化させながら、それぞれなりの答えを模索していくプロセスにこそ価値がある。まさに、知って使って地に足つけて考え続ける力が必要な時代なのだ。
6/13(火)グロービス経営大学院名古屋校で著者の出版記念セミナーを開催
『2020年人工知能時代 僕たちの幸せな働き方』
藤野貴教著、かんき出版
1500円(税込1620円)