『新版グロービスMBA経営戦略』から「V-SPRO-L」を紹介します。
戦略や方針が正しくても、組織がそれを受け入れなければ結局は実現されることはありません。あるいは、仮に受け入れたとしても、スキルが不足していたり、組織学習をする土台ができていなければ、効果的な戦略実行や組織変革実現には結び付きません。そこで重要となるのが、戦略や方針と組織がどのくらい整合性がとれているのかという視点や、その実態把握です。ここでいう組織とは、組織構造にとどまらず、仕組みやスキル、組織文化なども含む、広い意味での組織です。戦略と組織の関係性を見るフレームワークとしては7Sが有名ですが、組織学習も含めたV-SPRO-Lといった有効なフレームワークもあります。これらを活用しながら、多面的に戦略と組織の関係を理解していきましょう。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
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V-SPRO-L
コンサルティング会社であるアーサー・D・リトル(ADL)は、変革に失敗する理由として、以下の「5つの壁」の存在を挙げている。
●「認識」の壁:そもそもなぜ変革が必要なのかが社内に浸透しておらす、変革が進まない状態
●「判断」の壁:何を変革すれば成長できるのかが不明な状態
●「納得」の壁:変革の方向性は理解しながらも施策に納得していない状態
●「行動」の壁:変革に納得しながらも具体的なアクションが不透明な状態
●「継続」の壁:変革に必要なアクションが継続されず途中で頓挫した状態
これらの壁を打ち破るために必要な要素が、V-SPRO-Lである。V-SPRO-Lとは、企業変革における全体像を押さえるためのフレームワークであり、ADLによって開発された。V-SPRO-Lは、Vision (ビジョン)、Strategy (戦略)、Process(プロセス)、Resource (リソース)、Organization(組織)、Learning (学習)の頭文字を取ったものである。
● Vision (ビジョン)
企業が創りたい世界観やあるべき姿を示したもの。あるべき姿が共通化されていない状態では、なぜ変革をすべきなのか、本当に変革すべきなのか、という認識がずれる。このような「認識」の壁を打ち破るために共通化したビジョンが定義できていることがまずは必要になる。
● Strategy (戦略)
ビジョンを実現するためにとるべき戦略、すなわち「誰に」「どういう価値を」「どうやって」提供するのか、ということが定義されていなければ、本当にその方向が正しいのかを判断し、納得して進むことができない。「判断」「納得」の壁を打ち破るためには、戦略を明確に示さなくてはならない。
●Process(プロセス)
価値を提供するための社内的な機能連携(バリューチェーン)と、意思決定のプロセスのことを指す。どのような仕組みによって戦略を推進していくのか、そして社内のマネジメントをどのようにしていくか、ということが定義されていなければ、戦略は絵に描いた餅になる。「行動」の壁を越えていくために、プロセスの定義が必要となる。
●Resource(リソース)
戦略を実行するうえで必要な経営資源。具体的には、ヒト(人材)、モノ(設備・技術)、カネ(資金)、情報(データ、インフラ)といった要素が網羅的に整っていなければ、戦略の実行はおぼつかない。リソースの整備を十分に行うことが「行動」の壁の打破につながる。
●Organization (組織)
組織体制や風土といった組織にまつわるハード、ソフトの双方を指す。ハードには組織の構造や制度関係のもの、ソフトには価値基準や行動規範、組織風土といったものが含まれる。このような組織関係のハード、ソフトを統合していくことが、「行動」の壁を破り、戦略の実行を促すことにつながる。
●Learning (学習)
戦略を実行した後、その結果を踏まえて改善をしていく組織学習の仕組みを指す。ビジョンの下に戦略を推進しても、必ず成功するわけではない。結果を判断し、改善点を柔軟に見直して再挑戦していくことが求められる。それが「継続」の壁を打ち破ることにつながる。
このV-SPRO-Lモデルは、7Sでは見極めにくいソフトSを、よりシンプルに見分けやすい状態に定義するとともに、L(学習)を強調することによって、組織の進化そのものに着目した視点を提案していることがポイントである。
(本項担当執筆者:グロービス経営大学院副研究課長 荒木博行)
『新版グロービスMBA経営戦略』
グロービス経営大学院 (著)
2800円(税込3024円)