日常的な考えや行動の中に、「こころの力」を強くするコツがある――。日本における認知療法の第一人者である大野氏が、そのコツを教えてくれる本書は、自分に自信がなくなり、少し弱っているときにお勧めできる一冊だ。
様々な元凶と考えられるストレス。色々な病気の原因に「ストレス」という文字が並ぶのを見ても、ストレスが有り難くないものであることは確かだ。では、ストレスのない世界とは存在するのだろうか?
答えは「NO」。同じ事象においても、重荷に押しつぶされそうに感じる人もいれば、成長のチャンスと捉える人もいるように、ストレスというのは非常に主観的な体験であり、個人によって大きく異なるものだからだ。
だが、この主観的な体験であるということに、ストレスと向き合えるヒントが隠されている。つまり、絶対的なものでないならば、自分の考え方次第でストレスをうまくコントロールし、ストレスによって凹んだこころも回復させることができるというわけだ。
そう、大切なのは「こころを折らないようにする」のではなく、「折れ曲がっても戻れるこころに育てる」こと。
物理学用語であった「ストレス」には、対となる「レジリエンス」という言葉が存在する。外から力を加えた物質が変形しながらも、もとに戻ろうとする弾力性を意味するのが「レジリエンス」。この2つの用語は、他の分野でも広く使われるようになったが、心理学では、逆境(ストレス)に負けずに回復していく「こころの力」をレジリエンスと呼び、いま注目を浴びている。
では、レジリエンスはどのようにして鍛えられるのか。そのコツは日常のあらゆる考え方の中に存在している。たとえば、失敗が続いた際に「自分はダメな人間だ」と落ち込むことがある。もし、「おまえはダメな人間だ」と他人からダメ出しをされたら、「これについては、ここまで出来ている!」と反論したくもなるだろう。だが、自分で自分に出したダメ出しは、とてもスムーズに受け入れられてしまい、急激にやる気を失わせていく。ダメな人間が出した判断なんて当てになるはずがないのに、なぜか信じ込んでしまうという、そんな大きな矛盾も無視されてしまうのだ。
そこで、決めつける前に少し冷静になって、「本当にそうかな?」と自分に聞いてみてほしい。「本当にダメな部分しかないのだろうか」「できていることはないのだろうか」、このように自分に問いかけ、自分を正当に評価できることが、「こころの力」を強めることにつながっていく。そして、本当にダメな部分を見つけることで、今後の改善にもつながり、更には未来の成功へもつながっていくだろう。
ここに紹介したのは一例だが、他にもたくさんの考え方のコツが紹介されている。ストレスに対する感じ方が異なるように「こころの弱さ」も人それぞれなので、全部がしっくりくるわけではないだろうが、自分に響く「こころの力」を育てるコツに必ずや出会えるはずだ。また、認知行動療法を専門としている著者だけに、どのような考え(行動)をどう変えるかといった具体的な方法が示唆されているところもありがたい。
人は、知らず知らずのうちに、自分の力を奪うような言葉や考えを思いついてしまうことがある。まずは、そのクセを知ること。私自身は、「やっぱり・・・」「どうせ・・・」という自分を決めつける言葉の使い方から、意識していきたい。自分への声かけひとつで「こころの力」を育てることができるなら、やってみない手はないだろう!
『「こころの力」の育て方 レジリエンスを引き出す考え方のコツ』
大野 裕(著)
きずな出版
1300円(税込1404円)