「測定できないものは管理できない」と言われるように、事業活動の測定はマネジメントにおいて欠かすことのできない行為である。ビジネスの変化や経済成長と共にその測定方法は進歩してきたが、VUCA(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity)時代に突入し、経営環境が劇的に変わりつつある今、我々はどのような指標をどのように測定していけばよいのだろうか。
本書は財務諸表やその作成技術である複式簿記といった、アカウンティングの歴史を紐解く本である。アカウンティングの歴史は事業活動の測定の歴史でもある。それらを学ぶことから、今後を考えるための示唆を得られるのではないかと思い、本書を手に取った。
一般的に、測定結果やその過程を通じて、人間の認識や行動は変わり、成果につながる。古くはドイツの経済学者ゾンバルトが、「利益」という共通尺度で企業の活動が測れるようになったことで企業間競争が促進されて資本主義が誕生した、と述べている。現代経営学の礎と言われるテイラーの科学的管理法も、測定を通じて作業を標準化することで経営管理を行っている。さらに、国民総生産(GNP)という尺度で一国の経済状態が測定できるようになったことで、初めて政府は経済政策を実施できるようになった。
近年では、GoogleをはじめとするIT企業ではOKR(Objective and Key Result:目標と主な結果)という手法を活用しマネジメントを行っている。OKRは、定性的な目標(Objective)に対して、目指すべき定量的な結果(Key Result)を設定し、それが達成したかどうかを測定するものである。多様なメンバー間でゴールを共有し、コミュニケーションが促進できるなど、OKRは現在的な組織の課題に則したツールとして注目されている。また、利益で成果を測りづらい社会性の高い事業では、経済的なリターンの代わりに事業活動の成果を社会へ提供したインパクトで測定するという、社会的インパクトの議論も活発になっている。環境や事業の特性に応じて測定方法も進化を続けているのだ。
アカウンティング自体も進化してきた。複式簿記は交換という商業活動を記録することから始まり、原材料と労働力を製品に変換する過程を測定できるように改良されることで、製造業でも使えるようになった。そして、経済のサービス化が進み、無形資産の重要性が高まるにつれ、それを測定できるように現在も試行錯誤を続けている。
さて、昨今インターネットを始めとする情報通信技術(ICT)の進化が、事業の競争優位の源泉を変えている。一方でICTの進化は測定手法の進化や多様化をもたらしてもいる。財務諸表が事業の変化に適応し、事業を適切に測定するためのツールであり続けられるのかどうかはわからない。しかし、測定することなしに事業をマネジメントすることは困難である。我々は事業の変化を想像し、ツールの進化を理解しながら、何をどのように測定し、マネジメントをしていくのかを考えていく必要がある。
『バランスシートで読みとく世界経済史』
ジェーン・グリーソン・ホワイト (著)、 川添節子 (翻訳)
日経BP社
1900円(税込2052円)