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『中間管理録トネガワ』ヒットに見るコントラスト効果の有効性

投稿日:2016/12/15更新日:2019/04/09

©福本伸行・萩原天晴・三好智樹・橋本智広/講談社

『中間管理録トネガワ』というコミックが注目を集めています。「このマンガがすごい!2017」オトコ編の大賞を受賞し、また最近ではプッチンプリンとのユニークかつ意外性のあるコラボレーションも話題を呼びました。なぜこのコミックがこれほど受けているのでしょうか。

本作を読まれたことがない方のために簡単に紹介すると、もともとこの作品は福本伸行氏の人気コミック『カイジ』シリーズからのスピンアウトです。ポイントは、オリジナルの『カイジ』シリーズでは主人公カイジの憎き敵役だった、帝愛グループの幹部、利根川幸雄を主人公に据え、彼の中間管理職としての悲哀をコミカルに描いていることです。幹部ではあるものの、帝愛グループの絶対的な君主ともいえる兵藤会長のワガママな無理難題に右往左往したり、ライバルとの競争に一喜一憂する利根川の姿が何とも言えず笑いを誘うのです。

ここで効いているのがコントラスト効果です。これは心理学の分野でも有名な効果で、何かと対比した結果、それ単独で接触したときに比べ、感じ方が変わってしまう効果です。ビジネスでは特にマーケティングで活用されています。

たとえば不動産で5000万円の住宅物件は十分に高価ですが、隣に似たような間取りの6500万円の物件の案内があると、顧客は5000万円という高額案件でも安いように錯覚してしまうものです。実はその6500万円の物件は先約があり、本来は案内を出す必要がない場合でも、顧客の錯覚を誘うために用いるしたたかな業者も少なからず存在します。

人間は何かとの対比によって価値判断をすることが多いという点がポイントです。「人間は比較しないと判断ができない動物」と言い換えることできます。そこで大きな役割を果たすのがこのコントラスト効果なのです。

話を『中間管理録トネガワ』に戻すと、実は複数のコントラスト効果が働いていることがわかります。

まずは、オリジナル作品では憎らしい敵であった人物が、哀れな中間管理職であるという設定。オリジナルの『カイジ』シリーズは、手に汗握るシリアスなギャンブルものの作品ですが、そこで憎らしいキャラクターであればあるほど、コミカル調で虐げられる立場になった時のギャップは大きく、笑いにつながります。

また、内容はコミカルなのですが、画風はオリジナル作品とほぼ同様の劇画調です。これがギャグマンガ風の画風ならば面白さも半減したかもしれませんが、なまじ劇画調で利根川が悩むシーンが描かれると、オリジナル作品を知っている読者は思わず頬が緩んでしまうのです。

ドラマや映画などでもスピンオフ作品はよく作られるものですが、往々にして出来の良かったオリジナル作品と比較され、かえって評判を落とす作品も少なくありません。そうした中で、コントラスト効果を存分に活用し、オリジナル作品とは別の意味で印象深い作品に仕上げた本作は、コンテンツビジネスのみならず、サービス業などの他のビジネスでも大いに参考になるのではないでしょうか。

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