「地方をどうやったら活性化できますか」。地方選出の国会議員からこのような質問を受けた。「それは簡単です。グロービスのような経営大学院を地方につくればいいんです」と僕は答えた。
僕の考えはシンプルだ。地方に経営大学院を設けて、人材を育成する。卒業生がベンチャー企業を立ち上げ、雇用を創出する。卒業生が、ベンチャーばかりか、地場企業を変革し、地方が成長する。10年後には、大学院の周りに創造と変革の生態系ができあがり、地域がダイナミックに活性化しているだろう。
だが、大きな問題がある。地方には、経営大学院は進出しにくいのだ。グロービスを例にとるとわかりやすい。キャンパスがあるのは、東京、大阪、名古屋、仙台、福岡など、各地域の中核を担う大都市のみだ。それ以外の地域には現時点ではキャンパスがない。
大都市ばかりに集中し、地方との格差が生まれるのはどの業界でも同じだ。例えば東京・大阪間のリニア中央新幹線は民間が喜んで投資する。だが、北陸新幹線のような整備新幹線では費用の半分を国・地方が出し、それでやっと建設してもらえる状態だ。不動産も東京にはどんどん高層ビルが建つが、地方では自治体の助成金がないと建たない。大都市は栄え、地方の財政はどんどん傷んでいく。
人材育成面も同様だ。経営大学院は大都市に集中し、地方には皆無だ。東日本大震災後に東北の教育状況を調べてがくぜんとした。東北にはリーダーを育成する経営大学院が1校も存在しなかったのだ。その理由を東北の大学関係者や経済界の人に聞いたら、「ペイしない(採算に合わない)からだ」との答えが返ってきた。グロービスは仙台校創設にチャレンジした。だが、追随する大学院はまだ存在しない。
ただ、この教育格差を埋める可能性も見えてきた。カギの1つがテクノロジーの進化だ。オンライン教育なら、離島でも、山奥でも学ぶことができる。グロービスは、2015年に100%オンラインの経営学修士(MBA)プログラムを創立した。毎年50人以上が入学している。
オンラインMBAは個人の教育には有効だが、地域コミュニティーの形成には適していない。そこで2つ目のカギとなるのが「分校」だ。地方に小規模な分校を配置するという発想だ。本校で提供しているリアルなカリキュラムの一部を提供するとともに、地域コミュニティーを形成・維持する機能を持たせる。
学内でこの分校構想を真剣に議論し始めた。分校の名称は「特設キャンパス」とした。クリティカルシンキングやマーケティング、財務などの基礎的な科目をリアルな教室で実施し、その他の科目はオンラインで提供する。全ての履修科目は大学院の単位として認定され、地方にいながらにしてMBAが取れる構想とした。
普通に考えたら、グロービスの次のキャンパスは、札幌か広島あたりの地域中核の政令指定都市だろう。だが、それだと大都市と地方との格差は埋まらない。グロービスが分校を始めるならば、まず最初は経営大学院が存在しない中堅規模な都市が適切なのだろう。
例えば僕のふるさと水戸だ。日本三大藩校の1つである弘道館があり、学びに対してすごく熱心な風土がある。人口は27万人と規模は小さく、仮に分校を開設したらどれくらい受講生が集まるのかは全く予想がつかない。だが地方創生の一番の核が人材育成による産業創出だと証明する意味では、適切な規模だろう。
分校構想を前に進めるかどうか、都市をどこにするかはいまだ確定していない。だが、大都市と地方との格差拡大を食い止めることができるのは、人材育成だと強く信じている。これをグロービスが証明したい。近いうちに意思決定して、何としてでも実現したい。
※この記事は日経産業新聞で2016年11月11日に掲載されたものです。
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