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若者から学ぶこれからの時代を生き抜くスキル ―『若者離れ』

投稿日:2016/10/28更新日:2019/04/09

若者のビール離れ、クルマ離れ、恋愛離れ・・・メディアで毎日のように見聞きする「若者の○○離れ」。マーケティング担当者はもちろん、なんらかの実感を持つ人は多いのではないだろうか。

本書は「若者の○○離れ」の理由を単に探った本ではない。新しい価値観が生まれているのに社会から理解されない「若者」にフォーカスを当て、その生態を読み解き、大人がどう動くべきかを提言している書籍だ。そもそも少子化で相対的に人数が少ないため、若者の影響力は小さい。その結果、「社会の若者離れ」が起き、若者の可能性を社会に活かせない仕組みに陥っているのではないかと、著者は警鐘を鳴らす。

私自身は当初、「大人」と「若者」を区別して論じることには違和感を抱いていた。世代毎に勝手にカテゴライズされることには、なんとなく居心地の悪さも感じてしまう。しかし、そんなふうに思いながらも、自分より少し下の世代を「ゆとり世代」や「デジタルネイティブ」と称し、次々出てくるコミュニケーションツールの使い方には、すでにちょっと「ついていけないかも」と思っていたことは否めない。

平成元年生まれが例に挙げられている。物心ついたときから「失われた20年」の渦中にいた世代。早い時期からインターネットやSNSを使いこなしている彼らのことを、著者は生き方の選択肢が広がった時代、多様な価値観を持った世代であるとしている。また、これまでの時代背景を説明することで、若者を取り巻く環境と、そこから生まれた新たな価値観を説明し、いくつかのキャラクターに分け、「理解されない」若者をわかりやすく解説している。

「身の丈志向」「競争よりも協調」「正解思考」――これは新たに生まれた価値観だが、周囲の「若者」に当てはまっていると実感する一方、そうせざるを得ない環境や苦悩の果てに生み出されたものでもあると知ると、そのサバイバル能力には感嘆してしまう。また、具体例やインタビューを読み進めるにつれ、私自身、「ついていけないかも」と思っていた部分は、表面的なコミュニケーションスタイルや行動だけであり、その奥にある「自分らしくありたい」という本質は強く親近感を覚えるものだと気付いた。

ただし、その「自分らしくありたい」と思う欲求も、時代とともにその「あり方」や表現方法が変わってきている。著者は、所属先や所有するモノで「自分」を確立してきた時代から、一般論や前例といった外部から成る「正解」や「幸せのものさし」が消え去った今、「自分らしさ」そのものを自分自身で定義し、肯定しなければならない時代に突入しているという。「自分の中に絶対的なものさしを持ちたい」と感じ、その思いを表現するために行動しているのが、今の若者の姿であるとまとめている。

SNSの使い方や消費スタイルの変化など目に見えるものだけが大きく取り沙汰されるが、実際には多様な価値観や激変する環境の中、「自分らしくある」ことを肯定するためにどう生きていくのかを、力強く開拓しているのが現代の若者なのだ。どのように「自分らしくあるべきか」を様々なツールやコミュニケーションスタイルから探っている姿は、「こう生きるべき」というロールモデルが見つかりにくい時代の中、世代を問わず大きな学びがあるのではないだろうか。

大人も若者も、人口減少社会という未知の世界を生きていく、言わば同じ船に乗る身であることに変わりはない。危機感を煽る情報も、チャンスととらえよと言った提言も同時に存在し、働き方、生き方を選択していくにも、明確な答えなどないことだけはわかっている。「理解できない」「ついていけない」と「若者」を難しい問いの1つとして括り、突き放すのではなく、フラットに向き合い、新しい価値観やスタイル、そしてそれが生まれている根源を知ることも、この時代を生きる上でのヒントになると感じられる書籍である。

『若者離れ』
吉田 将英・奈木 れい・小木 真・佐藤 瞳 (著)/電通若者研究部 (編集)
エムディエヌコーポレーション
1500円(税込1620円)

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