『グロービスMBAアカウンティング』から「予算管理の意義」を紹介します。
予算管理はある程度の規模の企業であれば行われているはずです。予算管理はPDCAの基本でもあり、適切に用いれば問題解決にもつながりますし、評価を通じて人々のモチベーションアップにも貢献します。予算策定プロセスに巻き込むことでコミットメントを醸成したり、組織学習を進めることも可能です。このようにさまざまなメリットのある予算管理ですが、それを適切に行っている企業は多くありません。原因はおそらく、その効果が正しく理解されていない、あるいは、ある程度の手間暇がかかるため億劫になっているというところでしょう。ただし、これは逆に言えば機会でもあります。正しく予算管理を行いPDCAを回すことができれば、それだけ効率的でリーンな経営が実現するからです。いまや、戦略はコモディティ化しています。そうした時代だからこそ、効果的なツールを正しく用い、実行力を高めることが大事になってきているのです。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
予算管理の意義
会社は、将来の目標利益を設定し、それを達成するために努力する。しかし、目標利益を設定するだけでは、その利益を確保するためにどの程度の売上高を達成しなければならないのか、また費用をどの程度まで使ってもよいのか、といった具体的な行動目標が明確にならない。したがって、目標利益をわかりやすい具体的な売上高、あるいは費用の目標にブレークダウンすることが必要になる。こうして得られる売上高、費用の目標を利益計画と言う。この利益計画を実行に移し、達成していくための具体的で総合的な計画表が予算(Budget)である。そして、予算を確実に実現できるようなシステムをつくり、運営していくことを予算管理と言う。これは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(修正行動)という、一連の管理システムのサイクル(マネジメント・サイクルと言う)に沿って行う必要がある。
具体的には、まず会社全体、あるいは個別の部門ごとに、将来の売上高、費用、利益の数値目標である予算を作る。そして、予算に基づいて実際に活動を行っていく。この実際の活動結果を実績として集計し、最初に決めた予算と比較することによって会社の業績結果についての分析を行う。次にその分析結果をそれぞれの現場にフィードバックし、戦術や行動の修正などの必要なアクションを起こしていく。
予算管理を効果的に行うためには、以下の条件が満たされなくてはならない。
(1) トップ・マネジメントから現場の担当者に至るまで、全社員が予算管理の必要性を認識しており、また積極的にその運営に参加する態勢が整っている
(2) 予算管理の基本的な方法が理解されている
(3) 全社的な管理組織体制が確立されている
(4) 予算、実績、両者の差異、といった数値情報の処理システムが構築されている
(5) 企業規模に適した管理会計制度が整備されている
また、予算は利益実現のための計画表としてだけではなく、業績評価などの管理ツールとしても大きな威力を発揮する。なぜなら、予算は過去からの趨勢、経営環境の変化、市場の変化など、会社のいろいろな状況を加味して設定されており、それを実績値と比較することで多くの有用な情報が得られるからである(このほかにも業績評価には、今期の業績を過去の業績と比較する期間比較、同業他社の業績と比較する同業他社比較などがある。しかし、期間比較では、過去と現在で経営環境が変化しているかもしれず、また同業他社比較では、規模や取り扱っている製品やサービス、市場などが異なっていることも多い)。したがって、会社の業績評価をしっかりと行い、それに基づいて組織をコントロールしていくためにも、予算管理が非常に重要となる。
なお、予算を業績評価や組織のコントロールに活用するためには、適切な予算を設定するように仕向けるインセンティブが不可欠である。なぜなら、これがなければ本来の予算よりも低め、あるいは高めに予算を設定する、あるいは予算の設定段階で社内の力関係が各部門への費用の配賦に影響するおそれがあるからだ。予算が恣意的で不平等なものにならないよう、配賦基準は公平かつ合理的なものにすることが望まれる。
予算の設定方法
予算の設定には2通りの方法が考えられる。1つは、会社全体の予算に基づいて、経営陣が一方的に各部門の予算を割り振るトップダウン方式、もう1つは、現場の担当者が自主的に予算を設定し、これを集計することによって会社全体の予算をはじき出すボトムアップ方式である。このうちトップダウン方式は、現場の意見が無視され、予算を「ノルマ」と取られる可能性が高いため、動機づけが難しいという欠点がある。一方、ボトムアップ方式ではトップの意思が反映されないために現場の予算の合計が会社全体の利益目標とかけ離れてしまい、現場担当者がプレッシャーを感じないような甘い予算になるおそれが出てくる。したがって、効果的な予算を設定するためには2つの方法を併用することが必要となる。たとえば、トップが利益計画に基づいた予算の大枠の方針(予算編成方針)を設定し、その方針に基づいて各現場で予算原案を作成する。そしてこれを積み上げたものと方針が一致するように社内の予算委員会等の組織で調整し、最終的な予算を作成する方法が考えられる。現在では一般的に予算の設定段階でできるだけ現場の担当者を参加させ、予算目標達成の動機づけを喚起していくことが重要と考えられている。
また、経営環境が大きく変化して予測と現実が合わなくなり、設定した予算が現実味を失うことがある。このような場合には、既定の予算を見直し、一定のルールに基づいて修正を加えなくてはならない。一般的には、1年間の予算をその前年に設定し、その年度がスタートした後で、実績の推移と経営環境の変化に合わせて2度ほど修正を行うケースが多いようである。なお、予算管理の仕方は国によって違いがある。一般に、アメリカ企業の予算管理は厳しく、予算を月次までブレークダウンして設定し、これを実績と比較して毎月予算統制を行っているところが多い。一方、日本およびヨーロッパの企業はアメリカ企業に比べると柔軟で、実質的な予算統制を四半期あるいは半期ベースで行っている企業が多い。
(本項担当執筆者: 西山茂)
次回は、『グロービスMBAアカウンティング』から「具体的な業績管理のシステム」を紹介します。
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