人事や総務、経理といったコーポレート部門に関する議論の多くは、アウトソーシングや縮小など効率化が中心となっている。売り上げを上げるわけでも、顧客向けに直接的な価値を生み出すわけでもない。最近では、AI(人工知能)に取って代わられる仕事の中にコーポレート部門の業務も挙げられている。費用対効果の「費用」の方に注目が集まるのは必然なのかもしれない。
だが、コーポレート部門の「効果」をしっかりと検討したうえで「費用」の議論はなされているかというと、必ずしもそうとは言えないのではないか。間接部門=コストセンターという安直な発想では、大切な何かを失いかねないのではないか――。コーポレート部門で働く者として抱いてきた疑問を本書はクリアにしてくれた。
本書では、コーポレート部門の機能を二つに分けている。第1に全社に対してサービスを提供する機能。第2に経営資源の確保・維持や情報提供などを通じて経営者をサポートし、事業をマネジメントする機能である。前者を「サービス提供機能」、後者を「経営スタッフ機能」と呼ぶことができるだろう。この二つの機能がコーポレート部門の中で混ぜこぜになっていて明確に分離できていない場合もある。多くのアウトソーサーはどちらか一方の機能を提供しており、その点を意識せずにアウトソースすると、機能不全のコーポレート部門になってしまう。私が働くコーポレート部門では、年に一度全社員向けにコーポレート部門の仕事ぶりについてアンケートを実施し、フィードバックをもらうようにしている。そこで挙がる意見を突き詰めれば、「サービスの充実」と「経営への貢献」の二つへの要望であった。両方必要なのだ。まさに「二つの機能を区別して考えるべきだ」という著者の指摘どおりである。
また、「経営スタッフ機能」とはいかに事業の推進に寄与するかという視点で考えてしまいがちであるが、事業推進だけが経営ではない。著者はもっと幅広く「見極める力(投資家的機能)」「連ねる力(連携強化機能)」「束ねる力(代表機能)」の三つを必要な力として挙げている。これらは、人事、労務、法務、税務、財務、ITといったコーポレート部門が持つ高度な専門スキルとマネジメントの組み合わせによって実現されるものばかりだ。コーポレート部門の果たすべき役割は広く、大きい。その役割を果たしたときの「効果」を正しく理解することで、初めてコーポレート部門の費用対効果が議論できるはずである。
本書はコーポレート部門に求められる役割を俯瞰的かつ網羅的に見せてくれる教科書である。コーポレート部門はどうあるべきなのかという問題意識を持つ人におすすめしたい。
『グループ経営入門 第3版 』
松田 千恵子 (著)
税務経理協会
2000円(税込2160円)