『グロービスMBAアカウンティング』から「比率分析の体系」を紹介します。
財務諸表上の数値を用いて割り算を行い、比率を求める比率分析(指標分析)は、財務会計の分析の中でも最も基本的な分析である。比率分析にはさまざまな指標があるが、まずはそれらの意味を正しく理解することが必要だ。その上で、目的や状況に応じて適切な比率をピックアップし、それらを競合企業と比較してみたり、時系列で比較したりすることにより、企業活動のどこに問題があるかということや、戦略の差異などを把握することができるのである。比率分析では、一面的な分析にならないように、多様な視点からこれを行い、多面的に企業活動の実態をあぶり出すことが求められる。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
比率分析の体系
比率分析は、その目的によっていくつかに分類できる。本書では、指標を大きく5つのタイプ、すなわち総合力、収益性、効率性、安全性、成長性に分類している。
この中でも最も基本となるのが総合力で、これは、会社に投入した資金がどの程度利益に結びついているのかを測定するものである。具体的にはROE(Return on Equity : 自己資本利益率)とROA(Return on Assets : 総資産利益率)という指標であり、これらが高い場合には総合的な収益力の高い会社ということになる。なお近年、EVA (Economic Value Added : 経済付加価値)やMVA (Market Value Added : 市場付加価値)といった、総合力を示す新しい指標も生まれている。
収益性とは、会社の利益を生み出せる力を構造的な面から測定するものであり、具体的には売上高総利益率、売上高営業利益率、売上高経常利益率、売上高当期純利益率等の指標がある。
効率性とは、同じ売上高を上げるために拘束あるいは投入されている資金をどれだけ効率よく使っているのかを分析することで、資金の活用力を測定するものである。具体的には総資産回転率、売上債権回転率、たな卸資産回転率(在庫回転率)、仕入債務回転率等の比率がよく用いられる。
安全性とは、負債あるいは資本の構成をある程度中心にそれが安定しているかどうかを分析することによって資金面の安定性、余裕度を測定するものである。具体的には自己資本比率、流動比率、当座比率、固定比率、固定長期適合率、手元流動性、インタレスト・カバレッジ・レシオ等の指標がある。
成長性とは会社の売上高、総資産等の規模がどの程度変化しているのかを分析することで、会社の一定期間の規模の成長度合いを測定するものである。具体的には売上高成長率、総資産成長率がよく用いられる。
以上に示したように、総合力を中心に、収益性、効率性、安全性、成長性の4つがこれを支えている。そして、安定して高い総合力を維持するためには、これらの比率がバランスしていることが必要となる。したがって、会社の総合力が低下してきた場合には、4つの側面から分析を行うことによってその原因を突き止めることが必要である。また、総合力が低下していなくても、これらの分析を行うことによって会社の弱点を発見し、それを向上させるためのヒントを得ることができる。
さらに、比率分析は会社の財務状況を明らかにするだけでなく、その戦略をも浮き彫りにする。たとえば、「高い付加価値による差別化」をマーケティング戦略として採用すると、高級品はそれほど多くは売れないため、収益性が向上する一方で総資産回転率に代表される効率性は低下する。逆に、商品の差別化が難しいために低価格戦略を採用すると薄利多売となる結果、収益性は低下するが効率性は高まる。
また、M&A (Merger and Acquisition : 企業の合併・買収)をはじめ積極的な拡大戦略を採用している場合には、借入金等の負債や総資産が増加する傾向が強まる。さらに、積極的なマーケティングや人の採用、研究開発を行うと、販売費および一般管理費が増加する。このように経営戦略の違いによる特性も財務諸表上に表れてくる。
このように、比率分析をその目的に沿って適切に使い分けていくことで、内部者、外部者に限らず、会社の本当の経営実態をつかむことができる。
(本項担当執筆者: 西山茂)
次回は、『グロービスMBAアカウンティング』から「業種の特殊性」を紹介します。
『グロービスMBAアカウンティング【改訂3版】』
グロービス経営大学院 編著
ダイヤモンド社
2,800円(税込3,024円)