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リスクを表す係数β(ベータ)とは: 株式の個性の集約値

投稿日:2016/07/09更新日:2021/10/26

『グロービスMBAファイナンス』の第5章から「リスクを表す係数:β(ベータ)」を紹介します。

βは自社の資本コストを計算する際にも出てくる、ファイナンスの重要コンセプトの1つです。概念そのものは非常にシンプルで、市場全体の株価の動きよりも大きく変動するか、それとも小さく変動するかの程度を表すものであり、その株式のリスクを反映します。βは、業界特性をはじめ、会社の戦略や固定費の比率など、さまざまな要因によって影響を受けます。その意味で、その会社の株式の個性が詰まった数字とも言えます。βの大小そのものはその株式の良し悪しを反映するものではありませんが、ハイリターンを狙う投資家にとっては、βの高い株式は狙い目となり、逆にリスクを嫌う投資家にとっては、βは低いに越したことはありません。立場によってその高低に対する見方が変わる点がβの面白い点とも言えます。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

リスクを表す係数:β(ベータ)

1.    βの求め方

個別の株式のリスクとリターンの関係を定量的に把握することに成功したのがCAPMで、その中心となる概念がリスクを表す係数のβである。βは、マーケットポートフォリオの収益率が変化したときに、ある株式の収益率がどのぐらい変化するかを表している。つまり、株式投資において実行可能な最強の投資オプションであるマーケットポートフォリオをベンチマークとし、それに対する個別株式の相対的なリスクを表している。

数式によるβの算出方法は後ほど説明するとして、まずは視覚的な方法でβの求め方を見てみよう。説明の便宜上、マーケットポートフォリオとしては日経平均を使い、ある株式をZ社の株式とする。

マーケットポートフォリオである日経平均の値は、絶えず上がったり下がったりしている。今週末の終値を先週末の終値で割れば、今週の収益率(%)が計算できる。今週末の終値が9900円で先週末の終値が9000円だとすると、今週の収益率は10%となる。仮に日経平均の収益率が2%だったとしよう。この間、Z株の株価も変動している。Z社の収益率も同様のやり方で計算したところ、3%だったとしよう。そうすると、この点を下図のように表すことができる。

同様の計算を過去にさかのぼって行うと、いくつもの数値をプロットすることができる。その結果が下図のようになったとしよう。

この散布図を回帰分析した結果を直線で示している。この直線の傾きがβである。図表から明らかなようにβは日経平均が変化したときにZ社株がどれぐらい変化するかということを表している。リターンの変動がリスクである。したがって、日経平均の変化以上にZ社株の株価が変動すれば、Z社株のリスクは高いということである。その場合、直線の傾きは急になり、βの値も高くなる。

逆に、日経平均の収益率が変動してもZ社の株価が安定していれば、Z社株のリスクは小さい。その場合、直線の傾きは緩やかになり、βの値も小さくなる。以上から、βがマーケットポートフォリオに対する個別の株式の相対的なリスクを表していることがわかる。

2.    βの求め方

βがどんな値をとるかについて、簡単な例を挙げよう。ます、株式市場全体のβは1となる。なぜなら、Z社株の収益率の代わりにY軸に株式市場(=マーケットポートフォリオ)の収益率を当てはめると、X軸とY軸は同じ値になるので直線の傾きは1となるからだ。

同様に株式市場全体と同じような値動きをする株式のβも1になる。株式市場と同じように変動するβ=1の株式のリスクは株式市場のリスクと同じなので、そのような株式に求められるリターンは株式市場全体に期待されるリターンと同じでよいと考えられる。一方、βが1よりも高い株式は、株式市場全体よりもリターンの変動が激しいことを意味するので、ハイリスクということになる。そのため、株式市場全体よりも高いリターンが求められることになる。

リスクフリーである国債のリターンを考えると、そのリターンであるrfは決められたスケジュールで利子と元本が支払われる。そのため、株式市場がどのように変動してもリターンは一定である。先の散布図に国債のリターンを表すと、図表に示したように傾きがゼロの点線となる。したがって、βはゼロとなる。

それでは実際に株式のβの値を見てみよう。βの値は、東京証券取引所やブルームバーグ社などによって提供されている。ここでは、旧版と同じく東京証券取引所によるβを使って旧版で紹介した10年前の値と合わせて見てみよう。

βの数値を見てもそれほど違和感は覚えないのではないだろうか。電気・ガス業は政府の規制下にあるので安定したビジネスを行うことができる。電力事業は電力の安定供給という目的のため、赤字になれば値上げが認可される。逆に原油価格が下がった場合は、電力料金の引き下げが求められるので大儲けはできない。このため、電気・ガス業の収益は安定し、βは低くなる(注:ただし、2011年の震災時の事故以降は、東京電力のβは上がっている)。

また、どんなに景気が悪くなってもわれわれの食欲がなくなることはないから、食料品のビジネスは比較的安定しており、βも低くなる。これに対して、建設業は景気がよくなるとビルの建設ラッシュとなるが、景気が悪くなると建設計画は凍結される。このように景気の影響を強く受ける建設業のβは高い。金融業も同様にβが高くなる。このように事業の性格によってβの値が変わることがわかる。

(本項担当執筆者: グロービス・エグゼクティブ・スクール講師 山本和隆)

次回は、『グロービスMBAファイナンス』から「資本コストの定義式」を紹介します。

https://globis.jp/article/4551

グロービス出版

  • 嶋田 毅

    グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

    東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
    グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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