『グロービスMBAファイナンス』の第3章から「現在価値の考え方」を紹介します。
ファイナンスの非常に重要な考え方に、「将来の1円より今の1円」というものがあります。これは、将来の1円は、金利やリスクを勘案して現在の金額に換算すると(割り引くと)、1円未満の価値しかないということです。昨今は超低金利が続いており、金利に関してはあまり影響ないかもしれませんが、それでもリスクを考慮すると、明らかに現在の1円の方が将来の1円より価値があるのです。将来の金銭を割り引くレートを割引率といい、複利計算で効いてくる点が、投資判断などにおいて非常に重要な意味を持つのです。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
現在価値の考え方
事業の経済性を評価するための第2の視点が現在価値の考え方である。事業は継続するものなので、リターンのキャッシュフローも複数年にわたって生み出される。そこで時間軸の観点から事業の経済性を評価するのが現在価値である。
まずは簡単なケースから始めよう。2つのプロジェクトがある。一つが早熟型で、もう一つが晩成型である。どちらもリターンは100万円。早熟型は直ちにリターンを得られるが、晩成型は5年後にようやくリターンを得る。どちらのプロジェクトを選ぶべきか。
この場合は、だれもが早熟型のプロジェクトを選ぶはすだ。それは、100万円のキャッシュを今日手に入れれば、それを例えば銀行に預金することで、5年後には100万円以上にすることができるからだ。仮に預金金利を3%とすると、早熟型プロジェクトで得た100万円は銀行に預金することで、次のように増える。
100万円は銀行に預金することで5年後には116万円になる。これを複利の計算をする定義式に基づいて表現すると、次のようになる。
このことから、将来のお金よりも今日のお金のほうが価値があることがわかる。これを、投資の時間的価値と呼んでいる。
銀行の預金に注目すると、100万円が5年後に116万円になるということは、5年後の116万円と、今日の100万円の経済的価値が同じであることを意味する。この関係を式で表すと次のようになる。
複利の定義式を使って表現すると、次のようになる。
このように将来の経済的価値である116を(1.03)の5乗で割って、現時点における経済的価値に換算することを、「割り引く」と表現する。そして、割り引くときに使った数値(ここでは3%)を割引率(Discounted Rate、ディスカウントレート)と呼ぶ。
現在価値(PV:Present Value)の定義式はこれと同じ形で、次のようになっている。キャッシュフローを割り引くので、このアプローチはしばしばDCF(Discounted Cash Flow)と呼ばれている。
この定義式で注意する点は、ます割引率である。これまでの議論では、割引率として金利を使った。しかし、割引率=金利、ということではない。事業の経済的価値を評価する場合は、割引率として資本コストを使わなければならない。資本コストとは、資本の機会費用のことである。つまり、ある投資機会に投資するということは他の投資機会を諦めることを意味する。その諦める代償として支払わなければならない費用のことである。資本コストについては第6章で説明するので、それまでは割引率を所与として議論を続けることにする。
次に年度の設定である。現在価値の計算においては、通常、現時点をゼロ年度(Yr0)として、そこから1年後をYr1、2年後をYr2とする。説明をわかりやすくするために本書では、各年度のキャッシュフローはすべて期末に発生するものとして現在価値を計算する。
定義式を使って早熟型と晩成型のプロジェクトの現在価値を計算すると、次のようになる。晩成型プロジェクトの現在価値は86万円しかないことがわかる。
晩成型のプロジェクトの現在価値が86万円というのは、5年後に100万円を手に入れることは今日86万円を手に入れるのと同じ、ということを意味している。
(本項担当執筆者: グロービス・エグゼクティブ・スクール講師 山本和隆)
次回は、『グロービスMBAファイナンス』から「リスクの定義」を紹介します。
https://globis.jp/article/4508