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ベンチャー投資の新潮流「素人革命」とは?

投稿日:2016/03/11更新日:2019/04/09

テクノベート元年 2016年のインターネット潮流(総論編)[2]

素人革命1: CtoCのEコマース、最近の傾向は?

今野穣: さて、次に「素人革命」のお話をしたい。この領域に関して、私は3つの文脈があると思っている。1つ目がCtoCのEコマースで、2つ目がシェアリングエコノミーだ。この2つは重なる部分がある。で、最近はもう1つ、「ホビーテック」という文脈もあるかなと思っている。これは趣味の場でコミュニティやECをつくるという話になる。

まず、CtoCのECでは、今は3つほどの領域が盛りあがっている。1つ目は「チケットキャンプ」というチケット売買サービス。同様の流通サービスは他にもあって、言葉を選ばずに説明するとネットのダフ屋になる。チケットキャンプはmixiが百数十億で1年ほど前に買収し、今はその値段を大きく上回る成長を見せている。2つ目は我々の投資先でもある「メルカリ」に代表されるフリーマーケット。メルカリはすでに世界で3000万人以上がダウンロードしていて、月間流通総額も100億を超えた。そして3つ目がハンドメイドのECだ。手芸等が好きな方による1点もののプロダクト販売をインターネットで支援する会社が出てきた。たとえば「Creema(クリーマ)」やGMOグループの「minne(ミンネ)」、海外では「Etsy(エッツィー)」といったサービスが伸びている。

どれも売り主はコンシューマ。チケットも1度コンシューマの手に渡ってCから売られているし、メルカリも2次流通というか、中古品の流通だ。Creemaやminneでも、素人ではないかもしれないけれども、量産をしない個人のプロフェッショナルやセミプロフェッショナルが1点ものを流通させている。そうしたところが最近伸びている。

それと、もう1つ大きなCtoCを紹介したい。ヤフーは今ソニー不動産と組んで、不動産の長いチェーンを通さずにCtoCで流通させるサービスをスタートさせた。これ、実は不動産業界の相当な反発を喰らっていて、不動産業界団体は物件情報の掲載を止めている状態だ。ヤフーは恐らく社運を賭けて、業者を通さずにユーザーtoユーザーの不動産流通の世界をつくっているのかなと思う。CtoCは不動産の世界にまで及んで来た。

素人革命2: シェアリングエコノミー、最近の傾向は?

続いてシェアリングエコノミーについて。これは余った土地や労働力などの資産を他のユーザーと共有し、利用者が安価で便利に使える世界をつくるというものになる。

世界的に見るとやはりここには「Uber」と「Airbnb」の2強がある。Uberは個人がタクシー運転手になるサービスで、未公開ながら時価総額は7兆円がついている。一方のAirbnbは、個人宅のスペースを宿泊場所として貸し出すサービス。ただ、日本ではどちらの業界もかなり強い規制に、良くも悪くも守られている。それで新たな民間が参入できていないが、近い将来は海外のような状況になると思う。いずれにせよ、今日はそれら2大市場以外のシェアリングサービスを紹介したい。

たとえば「スペースマーケット」は、さまざまな名所や仏閣を時間切り売りで貸し出すサービス。また、CtoCで自家用車を貸し借りする「Anyca(エニカ)」というサービスもあるし、「akippa(アキッパ)」という会社には我々も投資を行っている。これはユーザーが自分の土地を駐車場として切り売りするサービスで、オーナーはすべて個人だ。

ポイントは、スマホの普及がこうしたリアルとネットをつなぐような共有サービスを促進している点だ。1番大きいのは予約・決済を事前にできること。これがユーザーにとっての利便性を劇的に高めた。いきなりシェアリングエコノミーということで出てきたわけではない。スマホのようなモビリティの高いデバイスがリアルの購買活動を容易にしたことで需要が生まれたと言える。ここはすごく面白い領域だ。たとえば家事代行でもシェアリングが生まれたりしている。主夫/主婦の労働力を共有しよう、と。さらにアメリカでは最近、料理そのものをシェアする形も出てきたという。つくり過ぎてしまった人が食べたい人にシェアするわけだ。

素人革命3: ホビーテック、最近の傾向は?

一方、「ホビーテック」というのは、オタクによるオタクのためのオタクのサービス。粘着度が非常に高いので面白いサービスが出てくると思う。ステージとしてはまだ浅いものの、こちらもいくつか紹介したい。たとえば「LOVEGREEN(ラブグリーン)」。植物の育て方を共有したりするメディアコミュニティサイトだ。クックパッドにおける料理コミュニティと同様、個体差のある植物の育て方に関し、コミュニティ内で教え合うインセンティブが働く領域だと思う。運営している方はテレビ番組に呼ばれるほどの植物オタク。誰よりも植物が好きということで、そのノウハウ共有に心血を注いでいる。もしかしたら今後はそうした叩き上げの起業家が勝つようになるかもしれない。

また、「釣報(ツリホウ)」という釣り情報のサービスもある。「今日はここの釣り場がいい」「ここでこういう釣果があった」という風に、そこで釣り人がリアルタイムで情報を共有している。この辺はEコマースの物販に流すと釣具が相当売れたりすると思う。あるいは「nana(ナナ)」という音楽関連サービス。何かの楽曲をカラオケで歌ってみたり、アレンジしてみたり、それらをアップロードして皆で共有したりする。最近、このサービスにシンガーのJUJUが1ユーザーとして参加したらしく、大いに広がっていそうだ。今は音楽レーベルが新人発掘のプラットフォームとして使ったり、コンテンツ販売に使ったりするサービスとなっている。こちらもサービス運営者はとにかく音楽が好きな方だ。そんな風に、今後、言葉は悪いけれども経営の素人というか、オタクの人が1つの領域をつくっていくかもしれない。そういう意味で「素人革命」の1つだと考えている。

AI(人工知能)、VR(仮想現実)、IoT(Internet of Things)の現状は?

あと、最後に技術的な動向も挙げておきたい。ここでは、AI(人工知能)、VR(仮想現実)、そしてIoT(Internet of Things)の3つが鍵になる。で、VRはカメラをかざしてリアルとバーチャルの画像を重ねたりして、新しいサービスをつくるというものだ。そしてIoTはあらゆるモノに通信機能とセンサを付けて制御および最適化を実現する技術。こういったところが注目されているというか、今はバズワードになっている。

ただ、投資に関連させてお話しすると、こうした領域では「ハイプカーブ」に気を付けなければいけない。ハイプカーブとは、1度盛りあがったあとに必ず収束して、そこから量産に入って安定化する推移を示したもの。各技術がそうしたカーブのどこに位置するフェーズなのかを考えながら投資しなければいけない。人工知能、というか自然言語や機械学習を例に挙げると、今は山を越えたあたり。ここから5~10年すれば、もしかしたら一般化するかもしれないというタイミングだ。VRはその山を越えたのち、もう少し下まで来た。ただ、一般化までの時間軸は同様に5~10年だろうというのが、昨年米ガートナーが発表した予測になる。我々は技術的動向を探るうえで必ずそうした点を踏まえたうえで、「サービスになってなんぼ」という見方をしている。

いずれにしても、AIに関してはいろいろ定義されているものの、実は本質的に未発達な部分が多いと思っている。実際、ほとんどの会社やサービスがハイプカーブにおける最初のフェーズで「人工知能搭載」と言っているが、それはビッグデータを解析しているだけ。データを採って、それを分類して、いくつかのパターンに分け、それで回答することをAI呼ぶケースが多い。これ、本質的に言うとAIではないというか、いまだフェーズ1の段階ということはお伝えしておきたい。

それが今はようやくフェーズ2に入りかけている。具体的に言うと、ある結果に対してアルゴリズムをつくる段階に入ってきた。例えば、「2」になる答えが「1+1」とか「3-1」だというパターンを導き出すようなものだ。これは、人間で言えば小学校低学年の知能レベルと考えてもよい。

で、その次が、人間の大人の知能のように環境やエモーションを認識するフェーズだ。これは人間そのもの、もしくはそれを超える状況になる。機械的ではあるが、答えがない問いに関してしっかり答えを出せる。そこが商用化に向けた壁というか分水嶺になると思う。たとえば画像解析。画像自体に答えはない。だから、それがどういう画像かを考える。そこで過去のさまざまな画像認識パターンをアルゴリズムにして、最終的には「こういう画像なんじゃないか?」と答えるようなものだ。

いずれにせよ、今は世の中で人工知能と言われているもののほとんどが、厳密には人工知能ではない。だからといってダメという話ではないけれども、今申しあげたような進化論を踏まえつつ、今どのフェーズにいるかを常に考えなければいけない。実際の投資でも、人工知能というバズワードにどう向き合うかが今は試されている。

一方、VRのほうは、進歩してはいるし、まずエンターテインメントやゲームの世界でそろそろ立ちあがると思う。それで今は相当なお金が投下されている。ただ、今後はエンタメやゲーム以外でスムーズなUXを提供できるか否かが、技術からサービスへ展開するうえでのポイントだ。いずれにせよ、ハイプカーブで見てみると拡張現実という意味では底を打ちつつあり、今後の立ちあがりは早いのかもしれない。

一方、IoTではいろいろなものがつながるという話だけれども、概念が広過ぎるのでIoTという言葉自体はあまり大きな意味を成さないと思う。デバイスの数も圧倒的に増えるので。大事なのはIoTを用いてどのようにして実需をサービスに変えるか。今はパーツごとにIoT的なものが世の中へ出回っている状態だ。

ここで一度まとめたいが、冒頭で申しあげた通り、今、インターネットは日常生活・人間生活のなかにより深く入り込んできた。同時に、世界はさらにフラット化・共有経済化しつつある。従って、テクノロジーの話とは少し異なるが、もしかしたら今後は成長という言葉の再定義が必要になるのかもしれない。「資本主義ってなんだ?」といった問いが、どこかのタイミングで出てくるのだろうと思っている。

そして、日常生活に密着したサービスがメインストリームになるからこそ、リアルの需要をネット上のユーザー体験に溶かし込むことが極めて大事になる。さらに言うと、日常生活がメインになるなら大手企業もベンチャー企業も横一線。大手企業もオープンイノベーションをさらに進めなければ取り残されてしまうと思う。もちろん、ベンチャー企業のほうも適切なタイミングでM&Aの判断をしないと、エコシステムとしても個社としても、最終的にハッピーな結果とならない可能性がある。

今日ご紹介したような新しい技術やビジネスの領域の中には、現状ではまだ「センサをつくりました」「データをとりはじめます」という段階のものも多い。言い方を変えると、「一定の解析ができます」という点から先の具体的なビジネスモデルに関しては、進化の余地が大きい。ただ、一方ではデータの蓄積自体が競争優位になる可能性もある。従って、テクノロジーでサービスを提供してくための1つの視点として、どういったデータの蓄積が競争優位になり、他社が追いつけないアセットになるかということを頭の片隅に入れていただくといいのかなと思う。

たとえばQuipperは面白い実験をしている。その実験では、iPadで何かの問題に回答する際のスピードや指の動きといったデータは、答えが正解か否かというデータ以上の価値を持っているとの実証結果を得られたという。これも1つのデータだ。回答時間や指の動きから伝わる迷いのようなものから、「答えは合っていたけれども、実はこの子は習熟していない」といったことが分かるのだという。そんな風にして今後はデータがどんどん細かくなるし、そのフィードバックも高度になる。その結果として、ユーザー1人1人にとって最適なサービスになっていくのだと考えている。

※本記事は、グロービス社内で行われた勉強会の内容を書き起こしたものです(全3回)

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