「経営理念は企業経営にとって大切だ」というメッセージに対して、全面的に「NO」と言うビジネスパーソンはあまりいないと思います。一方で、「理念は経営にどのような効果をもたらすのか?」と改めて問われると、回答に悩む・・・という方が多いのではないでしょうか。
経営理念の効果について、本書では特に中期的な競争優位性の大きな源泉となると述べています。その上で、「良き経営理念とはなにか」「経営理念の作り方」について示し、グーグル・P&G・リクルート・ミツカンなど19社にも及ぶ多様な企業の具体的な事例と効果を解説することで「なぜ経営理念は企業にとって不可欠か、どのような競争優位性をもたらすのか」という点をさらに深めて教えてくれます。
そもそも、経営理念とは何なのでしょう。様々な定義がありますが、本書では「使命・ミッションや行動指針・ウェイ・ビジョンなどと強く連関する経営の大方針」と捉えています。経営理念は経営戦略の上位に位置し、「良き経営理念」の条件としては
・従業員の心の拠り所となる
・経営者にとって迷った時の指針となり、意思決定や行動につながる
・戦略を狭く規定せず、創造性や可能性を生み出す
・良き企業文化を強化し、従業員が適切な行動を取ることを促進する
などが挙げられます。そしてこれらを踏まえ理念を策定し、浸透に向けた細やかかつ戦略的な仕組みの構築を行った上で、浸透させるトップの強い姿勢と努力が競争優位に繋がる一歩となるのです。
では、良い経営理念とトップの適切な努力があれば「競争優位となる理念」として組織内で機能するのでしょうか。実は、「良き経営理念」として機能している19社の事例を読んで共通して感じたのが、理念の中身や構築プロセス以外に、組織に属する一人ひとりの強い当事者意識と行動の継続が重要であるということです。一人ひとりが理念を理解し、実践し、体に染み込ませ、周囲へ伝えていく。この一連のプロセスを愚直にやり続けていることが、優位性を生む根底にあるものなのではないでしょうか。
その行動を生むためには、大前提として良い経営理念が重要なのですが、それを言い始めると鶏か卵かという議論になってきてしまいキリがありません。本書を通じて最も大切だと感じたことは、「いま目の前にある環境に対し、私は何をするのか?できるのか?」という問いです。
松下電器産業(現パナソニック)の創立者・松下幸之助氏の大番頭であった高橋荒太郎氏の著書『わが師としての松下幸之助』(PHP文庫)の中に、このような一文があります。
「松下電器の発展の理由を問われるならば、躊躇なくこう答える。
-それは、だれもがわかっていて、だれもができることを、経営の基本方針に沿って間違いなくやり通すように全員が最善を尽くしてきたことである-」
トップが良き理念を作ることは、もちろん大切です。それ以上に、私たち自身がどこまで理念を理解し貫き通すために行動し続けるかが、変化の激しい時代の中で組織・個人ともに生き残るために重要なことなのではないでしょうか。