今年も残すところ僅か。今年の仕事をやり切ったら2016年の自分の姿に思いを馳せてみよう。グロービス経営大学院のリーダー3人が、それぞれの現場で得られた知見をベースに大胆な予測を披露する。(企画・構成: 水野博泰=GLOBIS知見録「読む」編集長)
「自分は何したいんだっけ?」が問い直される年に
田久保善彦 グロービス経営大学院 経営研究科 研究科長
2015年、ビッグデータ、人工知能(AI)、機械学習、ディープラーニング、シンギュラリティ(技術的特異点)等々、様々なバズワードが話題になりました。テクノロジーの進歩によって、今ある職業の多くが機械やコンピューターに取って代わられる日が近いなどということも喧伝されました。漠然とした不安を抱いたり、なんとなく浮足立ってしまったり、落ち着かない気持ちになった人は少なくないと思います。
確かにテクノロジーの進化は急であり、仕事も社会も大きく変化していくでしょう。しかし、決して変わらないことが1つあります。それは、最も大切なのは私たち一人ひとりがどうしていきたいのかという意志であり、どのような価値観をもって与えられた時間を生き抜くかということなのです。
テクノロジー新時代の入り口に立った私たちは、今こそ、「自分は何したいんだっけ?」を問い直し、それを明確にしておく必要があると思うのです。
そうしなければ、時代の大波にやすやすと飲み込まれ、流されてしまうでしょう。価値観の軸がブレると、自分は何のために、何をやっているのかが分からなくなってしまうでしょう。自分は何によって価値を生み出すのかを知らなければ、おどおどと何かに怯えながら生きていくことになってしまうでしょう。
グロービス経営大学院で教えている科目領域のうちのいくつかは、近い将来、機械やコンピューターに取って代わられるかもしれません。しかし、価値観とか倫理観、志といったものは違います。だからこそ、グロービス経営大学院はそういったものをリーダー教育の中心に据えているのです。
テクノロジーの良し悪しを決めるのは、あくまで人間です。人がそれを何のために、どう使うのか、意志を強く持つことが問い直されているのです。2016年、フォーカスが「ひと」に戻ってくる――。そんな気がしています。(談)
「世界観のユニークさ」で勝負する年に
荒木博行 グロービス経営大学院 経営研究科 副研究科長/グロービス・オンラインMBA責任者
約1年半前に開講したオンラインMBAの責任者をしています。これまでクローズドな世界に押し込められていた知識や知恵が、オンラインという術を得たことによってオープンになり、人と知の新たな接点が広がっているのを実感しています。そして、今までは「オンラインで学ぶ」といえば、受け身のスタイルで知識習得を目的としたものが多かったですが、今後はオンラインであっても「対面と変わらぬ議論をする」という参加型の学習スタイルが前提になってくるでしょう。これにより、「知識習得」以上に、「実践知」の獲得を目的としたサービスでの戦いが加速することになると思います。
また、オンライン学習の最大の特長は、いろいろなサービスを有機的につなぎやすい、つまり、トータルとしてユニークな価値を生み出しやすい、ということにあります。グロービス経営大学院で言えば、オンラインのクラスと通学型のクラスをシームレスにつなげることによって、ビジネスパーソンの学び方をより柔軟にすることが可能になりました。さらに、GLOBIS知見録のような学び情報サイト、e-Learning、電子書籍などのオンラインサービスをつなぎ、意味付けすることによって、さらにユニークな価値を生み出すことが可能になるでしょう。
そこで問われるのは、リーダーがどのような世界観を持っているか、ということです。2016年は、世界観のユニークさの勝負になると思います。
リーダーが単品のサービスを個別に見ているのであれば、そもそもつながり合いは起こりません。小さな世界観であれば、そこそこのつながりに留まるでしょう。世界観が大きければ、想像もしなかったようなことが起こるかもしれません。
「学び方」そのものが大きく変わりつつあるこの節目のタイミングで、私自身、大きな世界観をもって取り組みたいと思っています。(談)
「専門部隊にいる外国人」が日本の既存組織と交わる年に
中村知哉 グロービス経営大学院 経営研究科 研究科長 MBAプログラム(英語)
グロービス経営大学院の英語MBAプログラムでは、2009年以来、約210人の卒業生を送り出してきました。特に全日制(フルタイム)ではほとんどが海外からの留学生です。1年間、グロービスの東京キャンパスで学び、企業でインターンを経験すると、来る前よりも日本が好きになる。日本の文化と風習が好きで、日本的経営が分かる稀有なグローバル人材です。手前味噌ですが、日本と彼ら・彼女らの母国をつなぐ結節点を作ってきた私たちの仕事はとても大きな意義があると自負しています。
卒業後に日本で就職する人も増えてきています。以前は、「日本語が話せなければダメ」と門前払いされることが多かったのですが、最近は日本語ができるに越したことはないが、能力本位、人物本位で採用する日本企業が増えてきています。グローバル化の加速、2020年東京オリンピック、観光インバウンドへの期待の高まり――なども相まって日本企業は確実に変化しています。
ただし、採用後の実態をつぶさに見ると、外国人は限られた部署(グローバル事業部など)に配置されていて、他の部門とはほとんど交わりがないというケースも少なくありません。
2016年、私はこの日本企業内の「外国人がいる専門部隊」と他部門の垣根が低くなって、外国人社員が日本企業内に“染み出し”、社内での交流が進むと見ています。組織的にも文化的にも交わり合いが本格的に始まる年になると思います。
この動きは、日本企業を内側から変える可能性を内在しています。日本人だけだった会議に外国人が入ってきます。阿吽の呼吸、予定調和というわけにはいきません。日本的な建前論に対しては本音の質問がバンバンぶつけられます。日本人社員にとっては緊張感が増すことになりますが、日本式に染まった思考回路からは出てこない新しい発想と出会うチャンスでもあります。多くの日本企業でそうした気づき体験が起こることを願っています。(談)