『グロービスMBAクリティカル・シンキング』の4章から「第3因子の見落とし」を紹介します。
第3因子の見落としは、ビジネス定量分析における相関分析でやってしまいがちな初歩的ミスです。相関関係があることをもって因果関係があると錯覚するわけですが、実はそれは疑似相関で、両方の原因となる因子が存在していたというパターンです。本文中の事例以外の典型的ケースとしては、海水浴場の事故件数とビールの売上げがあります。これはビールを飲んで酔っ払って事故が起きたというわけではなく、たまたま両方とも、第3因子の「気温」が高くなると増える数字というだけです。問題解決の基本は原因の特定です。そのためにも、見た目の相関にすぐに飛びつくのではなく、いったん冷静になって、本当に因果関係があるのかしっかり考えたいものです。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
第3因子の見落とし
2つ目の錯覚として、第3因子の見落としがある。第3因子が作用して2つの結果(仮にA、Bとする)を生じさせているとき、その第3因子の存在を見落として、AとBに因果関係があると錯覚してしまうことがある。共通の因子が作用しているためにAとBに相関関係が生まれるからだ。相関関係は、因果関係が存在するために必要な条件だが、相関関係があるからといって、必ずしも因果関係があるわけではない。例を挙げよう。
「イングリッシュプログラムZは英語のヒアリングカを高める。実際、イングリッシュプログラムZを実践した人が、実践しない人と比べて、英語を聞き取る量が120%高いことが実証されている」
これなどは英語教材にありがちなうたい文句だ。数字で示されていることで、客観性が高く、正しいと判断してしまいがちだが、本当に正しいだろうか。可能性としては、図に示したような、第3因子の存在が考えられる。英語のヒアリングカを高めたい人ほど、日常から積極的に英語に触れようとしている人が多いし、さまざまな英語教材への関心も高いという可能性は否定できない。もし、イングリッシュプログラムZの売り手がこうした疑問をクリアしたいのであれば、同じ被験者について、インクリッシュプログラムZの実践前と実践後の比較を行う必要があるだろう。
第3因子により生じる因果関係
なお、この事例では、「英語を聞き取る量」という指標を用いている点も気になるところだ。人によって定義がバラつきそうだし、客観性も担保しにくい。非常に恣意性の高い指標との謗りは免れまい。客観性を高めたいのであれば、ヒアリングカを客観的に評価できるテスト、たとえばTOEICのリスニングセクションのスコアなどで実証する必要があるかもしれない。
ビジネスのうえでこのような錯覚に陥ると、何か問題が起こったときに誤った対策を立ててしまう危険性がある。たとえば、あるサービス業で、他社が市場に進出してきたのと時期を同じくして売上げが落ち始めたとする。そこで「競争の激化が売上げの低下を招いた」と結論づける。もちろんその可能性もあるが、実はサービスの質の低下が競合の進出を招き、売上減につながっているのかもしれない。その場合、もし自社サービスの質の低下(第3因子)に気づかす、競合に対する対策ばかり考えたとしたら、売上げを回復させることはできないだろう。
◎演習
以下の因果関係の錯覚は何だろうか。
A社では最近、従業員に対して「ビジョン共鳴度サーベイ」を行った。その結果、A社のビジョンに共鳴している人材ほど、社内の人脈が広い傾向にあることがわかった。A社はこの結果から、「ビジョンに共鳴している人材ほど、ネットワーキングに熱心である」という結論を導き出した。
◎解説
隠れた第3因子として、「勤務年数」あるいは「職位」というファクターがあることを見落としている可能性がある。すなわち、「勤務年数が高いほどビジョンに共鳴するようになっており、同時に社内人脈が広くなっている」あるいは「昇進している人はその過程でビジョン面のスクリーニングを受けている(ビジョンに共鳴しない人は昇進しにくい)。職位が高いので社内人脈も広がりやすい」などの可能性が考えられる。
次回は、『グロービスMBAクリティカル・シンキング改定3版』から「仮説とは」を紹介します。