『グロービスMBAクリティカル・シンキング』の3章から「MECE」を紹介します。
今回ご紹介する「MECE」は、全体を分解して個々の構成要素に切り分けるときの必須コンセプトです。ロジックツリーやマトリックス、あるいはその他のフレームワークなど、応用範囲も多岐にわたっています。「モレなくダブりなく」と意味合いは極めて単純ですが、それを常に実行することは容易ではありません。特に、「モレなく」の方の難易度は極めて高いです。全体像が明確な場合はまだしも、「可能性」や「対策案」となると、全体そのものを明確に定義できないからです。そうした難しさも意識しながら、MECEを実行できれば、見落としなども減り、分析や問題解決の効率性は大きくアップしていきます。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
MECE: モレなくダブりなく
分解をする際、その完成度を確認するのに役立つのが、「MECE」(ミッシー/ミーシー)という考え方である。これは、英語の「Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive」の頭文字を取ったもので、「ダブリなくモレなく」という意味だ。マッキンゼー・アンドーカンパニーをはじめとするコンサルティングファームで徹底されている分析方法である。重要な点の見落とし(モレ)がないか、あるいは同じことをダブつて考えていないかをチェックする。全体をいくつかに切り分けた場合、その切り分け方にモレやダブリがないことを「MECEである」と言う。
図表にMECEの概念図と単純なMECEの例を示した。図表に示したものの中には、厳密な意味ではMECEでないものもあるが、こだわりすぎる必要はない。実践性を考慮すれば、8~9割の精度で使用に耐えれば十分(むしろ効果的)なことが多い。
MECEの概念図
単純なMECEの例
なお、MECEの概念を用いた代表的な思考ツールに、ロジックツリーやマトリックスがある。ロジックツリーとは、MECEを意識しながら全体を細かく分解していく過程と結果を示した図だ。全体を大きくいくつかに分け、枝分かれした先をさらに分け……と、多段階にわたって徐々に細かく分解していく形がツリー状に見えることからこの名がある。マトリックスとは、2種類のMECEな切り口を組み合わせて分類するもので、各項目の特徴をわかりやすく示しつつ、全体をカバーする一覧性もあることから、よく使われる。
ところで、現状を把握する場面ではMECEはどのように活きてくるのだろうか。たとえば以下のようになる。
「分析対象は大きくAとBに分けることができる。すると、Aが全体の大部分を占めることがわかった。ここから言えることは……」
「分析対象は大きくXとYとZに分けることができる。すると、XとYの値は昨年とほぼ同じだったが、Zの値は大きく伸びていることがわかった。ここから言えることは……」
ここで分解にモレやダブりがあると現状を正しく把握することができなくなる。上記の例で言えば、Cという要素がモレていればCについて認識できないし、YとZの要素に一部ダブりがあれば、Zの本当の増加度合いを知ることができないからだ。これでは、現状を正しく把握したとは言いにくい。MECEに分解する際、まずは次の2点に注意するとよいだろう。
全体をきちんと定義する
当たり前のようだが、「全体は何か」をしっかりとイメージし、そのイメージが間違いないかどうかをチェックすることが重要だ。たとえば、売上げを顧客の性別という切り囗から「男性からの売上げ、女性からの売上げ」に分解したとする。しかし、実は企業とも取引をしていたならば、「法人からの売上げ」がモレでしまうことになる。この例では、「個人からの売上げ、法人からの売上げ」という切り口で先に切るべきだったということになる(男性、女性は「個人からの売上げ」をさらに分解したものと言えよう)。分析対象の全体をきちんと確認しておくことが大切である。違う切り囗を交ぜない
自分はどんな切り囗で切ってみたのかを意識することも重要だ。たとえば、「10代、20代、30代……」とすれば「年齢」という切り囗で分けていると言える。「主婦、会社員、自営業、学生……」であれば職業で分けている。これを交ぜてしまい「10代、20代、主婦、学生」ではおかしい、ということだ。次回は、『グロービスMBAクリティカル・シンキング改定3版』から「因果の構造をとらえる」を紹介します。