「宇宙人の姿を思い浮かべてください」と言われたとき、あなたはどんな姿を想像するだろうか?(読み進める前に、ちょっと想像してみてください)。
多分、映画「E.T.」*1の宇宙人や「スター・ウォーズ」*2のヨーダのような姿(いずれも猿の赤ちゃんのようだ)、あるいは「エイリアン」*3のような姿(こちらは、カマキリなど肉食の昆虫を思わせる)を想像した人が多いのではないだろうか。いずれの場合も、目は二つで手足がある点で、地球上に既に存在する生き物に似ている。でも、冷静に考えてみれば、宇宙人が地球上の生き物に似ている保証は全く無い。実際の宇宙人は、何か幾何学的な姿をしているかもしれないし、そもそも人間の目には見えない存在かもしれない。なのに、地球上の生き物の何かに似てしまうのはなぜか*4?それは、自分が知っている生き物の延長としてしか宇宙人を理解できない人間の想像力の限界による。
人は、全く新しいコンセプトを持った製品(いわば、宇宙人的製品)に接した時も、宇宙人と同じように既知の存在と関連付けて認識する。例えば・・・世界に初めて自動車が登場した時、人はそれを「機械式の馬」であると認識した。だから今でも自動車の動力を馬力(Horse Power)という。世界に初めて飛行機が登場した時、人はそれを「空飛ぶ船」であると認識した。だから今でも飛行機の駅を「空港」(Air Port)という。世界に初めてインターネットが登場した時、人はそれを「世界に張り巡らされた網(World Wide Web)」であると認識した。Webとは文字通り「クモの巣」のことである。
上記のような人間の認知の仕方(というか「くせ」)を逆に考えれば、世の中に全く新しい製品が登場する時、既存の何かと関連付けられない製品は人々に理解されない、という仮説が成り立つのではないか。かつてアップルは「Newton」という製品を売り出したことがある。その時にアップルは、「既成の概念に当てはまらない全く新しいコンセプトの携帯情報機器」であると主張した。それは、イノベーション至上主義者からは賞賛を持って受け止められたが、一般の人々には受け入れられなかった。
iPhoneは全く新しい「インターネットマシン」であるという孫正義社長の主張も、構造的には「Newton」の時と同じである。新しい存在を既存の存在の延長としてしか認知できない以上、人は「インターネットマシン」といわれてもリアリティを感じないのである。(それは、iPodが「デジタル・ウォークマン」として、すんなり人々に受け入れられたのとは対極的である)。製品がいかにイノベーティブな存在であるかを主張したい売り手の気持ちは分かるが、独創性を主張すればするほど一般の人々にはリアリティのない製品に見えてしまうというジレンマをマーケターは意識すべきである。
*1 1982年公開のSF映画。スティーブン・スピルバーグ監督指揮の下、ユニバーサル・ピクチャーズが製作した。主人公の少年と異性人E.T.の心の交流を描き、第40回ゴールデングローブ章・ドラマ部門作品賞ほかを受賞した。
*2 ジョージ・ルーカス構想によるSF映画。1977年公開の「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」を皮切りに、2005年までの全6部作が完結。2008年にスピンオフ作として「スター・ウォーズ クローン・ウォーズ」を公開。
*3 1979年公開、リドリー・スコット監督によるSF映画。1997年までにシリーズ4作が公開されている。1980年の第52回アカデミー賞では視覚効果賞を受賞。
*4 円谷プロダクション「ウルトラマン」シリーズに登場する怪獣(これも宇宙人)に至っては、ほとんど何かの虫である