経営を考えるためのフレームワークというものは、全部で何種類くらいあるだろうか。例えば標準的なビジネススクールの授業の中で出てくるものという条件で考えたとしても、おそらく数百は下るまい。本書は、そうした無数のフレームワークの中でも「基本中の基本」「定番中の定番」を50個抽出し、解説を加えたものである。50のフレームワークは、
1章 クリティカル・シンキング
2章 戦略・マーケティング
3章 組織マネジメント・リーダーシップ
4章 会計・ファイナンス
5章 その他上級編
の5分野から満遍なく選ばれた。1つにつき4ページ。単に用語辞典的な語句の解説に留まらず、それぞれ「用いる場面」「考え方」「事例で確認」「コツ・留意点」という観点から解説されている。例えば「5つの力分析」のページで言えば、用いる場面として「参入を検討している業界の魅力度を知る」、考え方として「5つの力」の中身などを挙げつつ、「事例で確認」の項で日本のビール業界を分析した例を紹介し、「コツ・留意点」ではセグメントの分け方で競争環境が変わる点や、補完財やプラットフォームといった5つの力に表れないプレーヤーの存在を指摘する――といった具合だ。
本書に収録されているフレームワークは、その一つひとつを取ってみればGLOBIS知見録をお読みの方ならお馴染みで、既に仕事で使いこなしているという方も多いことだろう。しかしそれでも、この書籍を読まれた方には新たな発見があるに違いない。
特筆すべきは、マネジメントとして企業経営を行う上で、「これだけのことを考えながらやっていくのか」と俯瞰で見た全体感が分かる点だ。企業経営は、しばしばジェット機のコクピットに座って操縦することに喩えられる。所狭しと並んだ計器や画面、スイッチ、レバー類。パイロットであれば、それら全ての役割を熟知し、的確に操作していかなければならない。マネジメントも同様で、戦略、マーケ、会計、財務、人事、組織等々の各領域で起こっていることを把握し、的確な手を打つことが求められるが、カバーする領域があまりに多岐にわたるために、なかなか俯瞰的に全体を見渡すことが難しいものである。
個々のフレームワークはそれ単体で1冊の本が書けるほどの研究や実践例に基づいているので、1つの領域を注視していると、ついついその分野に思考が占領されてしまう。そこで、全体はどうなっているか、注意がおろそかになっている領域はないか、意図的に視点を上げて俯瞰的に見る意識を持つことが大事になってくる。基本中の基本フレームワークを簡便に網羅した本書は、そんな意識を持つきっかけとして、打って付けと言えるだろう。
もう1つの特筆ポイントは、50の基本的なフレームワークを並べてみることで、相互の関係性、何が基本的なコンセプトで、何が派生的なものかといった位置づけが見えてくる点だ。例えば、第1章で登場する「マトリクス」の考え方は、その後に出てくる「アドバンテージ・マトリクス」「SWOT分析」「アンゾフの事業拡大マトリクス」「ポジショニングマップ」などのベースになっていることが分かる。また、「バランススコアカード」は「PDCA」と適切に結びつけることが必要だ。というように、あるフレームワークを異なる分野にまたがって別のフレームワークと関連させて使うことで、より効果が上がることにも気付かされる。
ビジネススクール等でこれから経営を体系的に学ぼうと考えている人にとっての取っ掛かりを示すガイドとしてだけでなく、ある程度学び終えて今は最前線で経営に取り組んでいる人が頭の再整理をするのにも役立つ、おススメの一冊である