2015年10月5日、大詰めに来ていたTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の交渉が参加12カ国間で大筋合意に至ったというニュースが流れました。最後まで揉めたのは、「バイオ医薬品開発データの保護期間」「乳製品の関税」「自動車の原産地規則」だったということです。TPPというと特に農産物の関税などに目が行きがちですが、上記の争点からも分かるように、非常に幅広いテーマに関して議論していたことが分かります。
さて、ネゴシエーションの世界では、良い交渉の条件として、「Win-Winであること」が挙げられます。Win-Winとは、お互いが「自分にとっては重要ではないけれど相手にとっては重要なこと」に関して譲歩し合うことで、お互いの便益を増加、できれば最大化することです。
Win-Winの発想は非常にシンプルなものですが、交渉参加者が増えるにしたがって難易度は指数関数的に増していきます。ただ、この場合も1つの目途はあります。それが、ジョイント・プロフィット・マキシマイゼーション(Joint Profit Maximization)です。つまり、参加者の合計の便益が最大化されるように交渉を運ぶということです。「最大多数の最大幸福」に似た概念です。
ただ、この考え方は理想論としては分かるものの、実現には困難が伴います。第1に、便益を定量化することが難しいということです。仮に交易等についてはすべて金銭的価値に置き換えることができたとしても、文化破壊のような事象の可能性を定量化するのは容易ではありません。
また、今回の交渉は複層交渉で、各国が国内の複数の関係者をどう納得させるかという問題もあります。ジョイント・プロフィット・マキシマイゼーションが実現しても、必ず不利益を被る層は一定比率生じます。そうした人々をどう扱うかは非常に重要な問題なのです。
便益を得る国が偏ったり、不利益を受ける関係者に過大に補助金をばらまくことになるようでは困ります。あらゆる関係者を含めたジョイント・プロフィット・マキシマイゼーションが実現されるか、今後とも見守っていきたいものです。