ロッテホールディングス(HD)は8月17日、都内で臨時株主総会を開き、現経営陣である重光昭夫氏が提案した議案が通過した。創業者で父親の重光武雄氏、長男で前副会長の宏之氏と次男の昭夫氏の間で繰り広げられた経営権を巡る創業一族の争いは、「親族経営」に頼る兄に対し、「法と原則」に基づく経営を掲げた弟という構図でもあった。株主総会では「法と原則に基づく経営をより向上させると同時に、透明性の高い遵法経営を徹底的に推進する」ことが決議され、併せて、元検事の弁護士の佐々木知子帝京大法学部教授が社外取締役として選任された。
この問題、コーポレート・ガバナンスの観点から見てみたい。コーポレート・ガバナンスは、2001年に発覚したエンロン不正会計事件を契機に、企業の不正を防止し、経営の説明責任を高めるための方策として世界的に整備が進められてきた。日本企業においては、社外取締役によるコーポレート・ガバナンスの強化は近年まで進んでいなかったが、
この変化を後押ししたのは、安倍政権が政策的に推し進めているコーポレート・ガバナンス改革だ。「会社法を改正し、外部の視点から、社内のしがらみや利害関係に縛られず監督できる社外取締役の導入を促進する」という方向性が2013年6月の成長戦略に盛り込まれ、翌年6月に成立した改正会社法で社外取締役を選任することが事実上強制されることになった。上場会社等において社外取締役が1人もいない場合には「社外取締役を置くことが相当でない理由」を定時株主総会で説明しなければならないとの規定が新たに置かれたのだ。
強いられて置いただけの社外取締役では、東芝の例を挙げるまでもなく、十分な監視機能が働くことは期待できない。ソフトバンク社外取締役の柳井氏(ファーストリテーリング会長兼社長)は「大体の案件に僕は反対ですよ」(日経ビジネスオンライン2015.6.30)と話しているが、このように活発な議論がなされている例はまだ珍しい。本質的には、社外からの箴言に進んで耳を傾け、社内の内輪の論理ではない説明をしきれるだけの力量が経営者に問われる。
マスコミを賑わせたロッテのお家騒動。父と兄との戦いに弟が勝ったという側面よりも、67年の同社の歴史で初めて社外取締役を置き、閉鎖的な家族経営からの脱却の方向を示したことに注目したい。