マネジメントスクールや企業研修でマーケティングに関する講座を多く担当していて、よく聞くのが「新規事業が生み出せない」という悩みだ。その背景には、世の中にモノが溢れ、既存品の改良では技術的な優位性を見出せなくなっていることがある。製品を投入してもすぐに価格競争に陥り、満足のいく利益を出せないのだ。
マーケティング戦略立案のセオリーとして、特に新規事業においてまず考えるべきことは「市場機会を発見する」である。そこに新たな市場を創造できれば、当然、その市場(ブルーオーシャン)でナンバー1になり、利益率の高いビジネスが展開できるはず。しかし、現実はそう簡単ではない。
では、一体どうしたら「市場創造」は実現できるのだろうか。本書では、「文化の開発」と「技術の開発」が必要であると説いている。「文化の開発」とは、世の中にまだない新しいコンセプトから価値を創造する、商品・ライフスタイルの企画である。「技術の開発」とは、価値の定義が既に固まっていてコストパフォーマンスの競争が行き詰っている中で、性能を向上させるという意味である。
特に、「文化の開発」という視点は、新事業の立ち上げに取り組んでいる私にとって、とても気になるところだ。そこで、本書の中から「文化の開発」に必要なポイントを取り上げ、5つにまとめてみた。
1. そもそも、「何がしあわせか」を考える
新しい文化を開発するとは、今までしあわせと思っていなかった状態をしあわせと思うようにすることだ。そのためには、しあわせになるための「手段」を考えるよりも、「目的」を設定することに注力すべきだ。
2. 問題を発明する
誰も問題として意識していない問題を問題として設定するということは、問題の「発見」ではなく「発明」だ。問題の発明は、最初は妄想の世界とも言える。自分の中から出てきた構想を事後的に正しくしようとする営みであり、既にある問題に後追いで対応するのではなく、自らが理想に照らして価値を評価するというスタンスを取るべきだ。
3. 主体的に自ら情報を発信し、現場に働きかけ、新しい情報を発生させる
自分の中から出てきた構想を正しいものだと言うのは、傲慢な営みとも言える。大企業の中で取り組もうとすると、これまでの常識が障害となり、新しい営みが実現できないことが多い。新しいものをつくるときには「何がどこでどう問題で、それをどのように捉え、どう解決するのか」を言葉にして、現場に働きかけ、反応を観察することで、問題を問題として認識させることが重要だ。
4. 新しい文化のエコシステムをつくる
具体的に生活者の暮らしをミクロの視点からマクロの視点まで俯瞰して課題を設定し、解決策を模索する。その際には、「風が吹くと桶屋が儲かる」の発想が必要だ。社会のどこかで起きた変化がまず直接関係がある商品に変化の圧力を加え、それによって発生した一次的変化が周囲に波及し、二次的変化を生む、ということまでイメージする。
5. ステータスと仲間をつくる
最終的に顧客が消費するかどうかは、「商品のもつシンボル性」「連想されるドラマ」「物語の価値」で決まる。商品に「「社会的機能」をもたせ、それを持っていると社会的価値があり、同じユーザー(仲間)といることが誇らしくなるように意味づける。そのためには、消費の権威(オピニオンリーダー)をつかまえ評価していただき、世の中に良さを発信してもらえるかがポイントだ。
このように、文化の開発は一朝一夕にできるものではない。それができる人材の共通点は、1)豊富な体験から自分の引き出しにネタが多くあり、2)気配りが行き届いていて優しい人柄で、3)自分と考えや立場が違う人や自分と違う欲求を持っている人たちと真っ向から交流し情報を取れることだそう。異質なモノであっても自分の意見を真摯にぶつけ、新しい発想を生み出そうという心意気が重要なのだ。