7月17日、2500億円超という新国立競技場のデザイン見直しが決まった。一時はズルズル行きそうだっただけに、安堵した方も多いだろう。しかし、なぜ一般人には馬鹿げているとしか思えないプロジェクトが一時はそのまま進みそうだったのだろうか?
これを説明するのが「コンコルドの錯誤」とも呼ばれる、「サンクコスト(Sunk Cost:埋没原価)へのこだわり」だ。サンクコストとは、過去にすでに発生してしまっており、将来に向けてどのような意思決定をしても変化しようのないコストだ。現在の意思決定でサンクコストが変化するわけではないので本来考慮する必要はないのだが、それに左右されてしまう非合理的判断が頻繁に観察される。今回のケースでも、過去に費やした時間や手間暇に加え、すでに今回のデザインに関して50億円を超える契約が締結済との報道があった。それがデザイン見直しの意思決定を遅らせてしまったことは否めない。
コンコルドの錯誤と呼ばれるのは、かつて就航していた人類初の超音速旅客機コンコルドが、まさにこの罠に落ちたからである。コンコルドは、計画当初から採算をとることはできないであろうことが予見されていた。それにもかかわらず関係者は、「ここまで開発費をかけたものをいまさら止めるわけにはいかない」と事業を続け、結局採算ライン250機のところ、わずか数十機の生産にとどまり、結局、十数年でその歴史に幕を下ろしたのである。
公共事業の場合は、こうした事情に加え、(1)責任者が曖昧である、(2)期間が長く、タイミングを逸するとますますサンクコストが膨らむ、(3)複雑に絡み合う利権構造ができ上がってしまい既得権益層が反対に回る、といった悩ましい要素もある。
今回は比較的傷が浅い段階だったことに加え、2500億円というあまりに巨額の投資額にさすがに多くの国民が疑問を抱いた結果、見直しが行われた。しかし、我々は他人のことを馬鹿にできない。社内のいたるところで、あるいはプライベートの中でも、「コンコルドの錯誤」や「止められない公共事業」と同じ現象が起きているはずだ。一度、そうした錯誤に自分も陥っていないか、虚心坦懐に物事を見ていただきたい。